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事故が頻発する工場

ある地方の飲料製造会社(K社)の建て直しを依頼されました。この会社は、町おこしの一環で温泉を掘っていたところ、非常に良い水が出たため、役場が天然水の販売を思いついて地元の民間企業と第三セクターを設立しました。

しかし、その後事業が立ち行かなくなります。そこで町は、ちょうど飲料製造に興味を持っていたK社のオーナーに泣きつき、事業を買い取ってもらうことにしました。このため、土地建物は町が所有し、工場長や従業員も役場に勤めていた人や、近隣の地元の人ばかり20名程で運営しています。

K社の製品は、オーナーの人脈で大手スーパーに納入していましたが、最近は業績が悪化しています。このためK社のオーナーから経営を再建する依頼があり、早速現地を視察することとなりました。

高速を降りると工場に向かう道は一本道です。右側は切り立った山、左側は崖という道を走ること20分ほど、漸く工場に到着しました。出迎えてくれたのは工場長ともう一人の幹部です。工場長は右手を包帯で巻いています。話を聞くと、2ヵ月ほど前に機械に挟まれて怪我をしたようです。この工場では他にも従業員の怪我が数件あるようでした。

作業場に入ってその理由がわかりました。工場長も含め、働いている従業員の作業着は酷く汚れています。床には段ボールが散乱して黒く変色しており、それを踏みながら作業をしています。使用した段ボールの空箱はそのままで放置され、本来作業時は閉じなければならない機械の小窓が開けっ放しになっています。

また、作業場のあらゆるところに使われていない設備が埃をかぶって置いたままになっています。聞くと、これらの機械は当初町が購入したものの、使えないためそのまま放置されているようです。

倉庫も整理されていません。ペットボトルの原料が大きな袋でそこら中に積み上げられています。先日、この袋が倒れて、作業していた従業員が下敷きになって怪我をしたとの話もありました。ペットボトルの原料はレジンというプラスチックの粒のようなものですが、これが袋に入っているとかなりの重さになって危険です。

工場は月曜日から土曜日まで12時間2交代制で稼働しています。但し、メンテナンスや洗浄の時間が長く、生産性は良くないようです。

工場長はとても真面目な方で、ほとんど泊まり込みで仕事をしています。しかし、元々町役場に勤めていた方なので、製造のプロではありません。従業員に対する指導も十分できていませんでした。

工場長に作業場の感想を率直に伝えたところ、「現場の状況が良くないことはわかっているが、人が足りずに片付けや清掃の時間が取れない」とのことです。

実際に人を採用しようにも、こんな山奥に来てくれる人もいません。慢性的な労働力不足ですが、オーナーから業績の低下を責められるので工場長は肉体的にも精神的にも疲弊していました。事故が頻発している理由には、こうした理由もありそうです。

製品品質の管理が心配でしたが、最低限のことはやっていると言います。但し、本来毎年交換すべき部品をコスト削減のために3年に1度の交換で済ましているとの話もあり、やはり問題はありそうです。

現場を見ない経営者

驚いたのは、この工場を月に2度指導に来るコンサルタントの存在です。

工場長も他の従業員も素人のようなものなので、こういう状況ならば私のような人間より、現場が指導できる人に入ってもらった方が良いという話をしたところ、なんと月に2回ほど5Sのコンサルタントが来ているとのことでした。

そのコンサルタントは大手メーカーのOBで、現場での指導はほとんどせずに、5Sについて長々と講義をして帰っていきます。

工場長や従業員は、現場の改善もしてくれないため無駄だと感じていたものの、オーナーが雇った人なので、仕方なく毎回話を聞いているとのことでした。

5Sのコンサルでありながら全く現場で指導をせずに、事故が起きても知らぬ顔で講義を続けるコンサルタントにはあきれるばかりですが、そもそもそのようなコンサルを雇ったオーナーに問題があります。

確かに現場は遠い山の中です。しかし、現場の状況を自分で全く把握せず人に任せたままにして、事故が頻発しても気にしない姿勢は驚きです。

中小企業には、K社のオーナーのように現場を知らない経営者は少ないかもしれませんが、実際に何が問題かわからず、兎に角コンサルタントに丸投げしてしまう経営者もいます。

コンサルタントは所詮責任を負わない外部の人間です。経営者がより良い決断をするために利用するのは構いませんが、任せきらずに自らチェックしないと従業員が苦労します。そしてそれが顧客に対して迷惑をかけることとなり、最終的にはオーナーの責任が問われることになります。

そうはいっても、こんな状態の企業をそのままにしておくわけには行きません。このままだとまた大きな事故が起こってしまう可能性があります。そこで、まず工場長と現場の主任を集め、4Sの実践から始めました。。

(詳細についてご興味ある方はご連絡下さい)

 

その他のケースにご興味がある方は、Blog「経営のヒント」をご覧ください。