Pocket

資金繰り相談の解決策は「事業承継」

~こちらの事例は代表ブログからの転載です~

資金繰りが厳しい

ある地方銀行の支店から、「資金繰りが苦しくて困っている運送会社(A社)がある。何か良い方法を考えてもらえないか」と言う相談を受けました

取引銀行によるとA社は2度ほどリスケをしています。従業員は社長と数名のドライバーだけで、皆さん忙しく働いています。この社長は真面目な方ですが、過去に従業員に大金を持ち逃げされたことがあり、その結果、銀行借入が大きくなってしまったようです。

無理をして返済をしていたようですが、売上も利益もそれほど増えるわけではなく、事業の収益で返せる額ではないため、銀行も頭を抱えていました。

話を伺っていると、社長には息子が2人いることがわかりました。2人はA社を手伝う予定だったのですが、従業員に大金を持ち逃げされ社業が傾いてしまったので、息子2人の将来を考えた社長が、A社では仕事をさせなかったようです。

社長は業界が長く、人柄もとても良い方でした。取引先からの信頼も厚く仕事も途切れることがありません。ただ、年齢がすでに70歳に近づいており、あまり無理もできなくなってきました。

また、会社を少人数のドライバーだけで切り盛りしているため、全ての取引先の依頼に応えることができません。このため売上額は毎年それほど変わりませんでした。

一方で、燃料費の上昇や車両の老朽化に伴うコスト、それに従業員に支払う報酬等、さまざまな経費がかさむため年々利益が少なくなり、事業の運営には苦労していました。

社長は自宅以外に親から譲り受けた実家(空き家)を持っていました。住宅街にあるその家は、駅から歩いて5分ほどの好立地ですが、銀行の担保になっています。社長としては賃貸に出すか、売却して銀行の返済に充てられればと思っていますが、担保となっているので勝手に手を付けられないと考えていました。

資金繰りが厳しいため、借入のリスケや追加の融資を希望しているものの、銀行は、追加融資や、もう一段のリスケはできないと言っています。ただ、「取引先なら紹介できます」と言われたようですが、現状でも受けられないほど仕事があるため、全く問題解決にはなりません。

事象と事実から考える

さて、ここまで読まれると、いくつかの問題点がお分かりになると思います。

資金繰りが苦しい原因は色々あるようですが、基本的には、過去に大金を持ち逃げされた時の借入負担が重く、今の商売のままでは返済が難しいわけです。

幸いなことにA社の社長は、その人柄もあって取引先から信頼されており、仕事は断らなければならないほどあります。ただ年齢が70歳で後継者もいないことから、取引先には「いつまでお願いできるのかねえ」と言われています。

それに、仕事は断るほどあるものの、全く儲かっていませんでした。働けど働けど楽にならず、返済原資となる利益が全く増えないわけです。

そこで私は、他社で働いている二人の息子を呼び戻し、長男には営業を、次男には管理面を中心に責任を持たせるようにアドバイスしました。現在の問題点を伝え、二人を呼び戻すことでそれがどう変わるかを説明したところ、納得した社長は二人を会社に呼び戻します。

息子たちは、元々父親の会社で働くつもりでいましたし、状況の悪化する中で年老いていく父親の力に何とかなれないかと思っていたため、二つ返事で戻って来てくれました。

取引先は現状でも、A社長の仕事には満足しています。ただ70歳近い年齢と後継者がいないことに不安を抱えていました。そこで、まずは2人が事業を引き継ぐことを社外にはっきり示すため、社長が長男と次男を引き連れ、取引先に挨拶に行きました。

この結果、取引先からは、「これから安心してA社に仕事を任せることができる」と安心されました。長男が営業責任者となって取引を増やしたことで、トラックの賃料や経費は若干増えたものの、それを遥かに上回る売上を上げることができるようになりました。

A社は社長がすべての管理業務を行っていましたが、実際には手が回らず、案件の管理や経費の管理もできていませんでした。お金が入ってきても何にいくら使ったのか、社長も従業員も管理していません。

そこで次男を経営管理の責任者としました。さまざまなコストを見直すと、これまで赤字で仕事を受けていたり、資金の回収を後回しにしていたりという事態が数多くあることが判明しました。

こうして呼び戻した2人の活躍で、A社の経営はどんどん好転していきました。

因みに、駅近の実家は売却することになりました。そもそも銀行は、担保物件を売却したいと社長が思っていたことを知りませんでした。社長も、銀行に担保に取られているモノは売ったり貸したりできないと思っていました。お互いに意思疎通ができていなかったため、収益を生まない資産をいつまでも持つこととなっていたわけです。

立地が良いため賃貸に回すことも考えましたが、相談した結果、売却して返済に回し、事業に集中した方が良いという結論になりました。このため、銀行と売却時の価格や返済について合意をした後、売却を進めました。

資産売却によって借入も減り、息子二人の力で増収増益になれば、A社の資金繰りも楽になります。何より、事業承継の目途がついたことで、取引先は安心してA社に仕事が頼めます。こうして仕事が増えても、次男が管理をしっかりしているので、もう赤字の仕事ばかりを取ることもないでしょう。

資金繰りが問題と銀行や経営者が思っていたことの解決方法は、リスケ等の金融的なものではなく、事業承継だったわけです。

事象の裏返しが問題解決ではない

経営者も金融機関も、問題が起こると、その原因を追究するよりも起こっている「事象」を何とか解消しようとする傾向があります。例えば「資金繰りが苦しいから、その資金繰りを楽にするためにリスケを行う」ということは、「資金繰りが苦しい」という事象を「リスケする」と裏返しただけです。

資金繰りが苦しいという「事象」は真の問題ではありません。資金繰りが苦しい、従業員が少なくて収入が増やせない、管理が行き届かない、資産が売却できない、借入が返済できない。

こうした事象や事実から、何が問題かを経営者と共に考える。それが金融機関や私たちの仕事です。