「普通の人」が起業する(2)~なるべく早めに失敗する

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現地法人を設立したい

前回、アクセサリーショップを開きたいという人の話をしましたが、「起業するなら、まずは事務所を決めないと」という人が少なくありません。従業員を雇うわけでもないのに何のために事務所が必要なのかと思って聞くと、「会社を作るならオフィスが必要じゃないですか」という答えが返ってきます。

これが国内であればまだ良いのですが、海外ビジネスを始めたいという方からも、「まずは現地にオフィスを設立して。。。」と言われることもあります。

先日、海外で起業したいというBさんから相談を受けました。話を伺うと、「ベトナムからカカオ豆を輸入して日本で販売したい」とのこと。現在は、関東地方でサラリーマンをされているのですが、輸入したカカオ豆を加工して、国内のカフェで提供することを考えているようです。

「ベトナムから輸入するなら、まずは現地にオフィスが必要」ということで、ベトナムで会社を設立する方法について相談を受けました。

初めて起業する時は、苦労よりも楽しいことに目が行きがちです。「起業してオフィスを持ち、アシスタントを雇ってバリバリ働いている自分の姿」を考えるだけでも楽しくなります。

もちろん、会社を設立することは誰でもできます。でも難しいのはそこから。商品を誰にどのように売るのか、誰がその商品を買ってくれるのか。当たり前ですが、買ってくれる人を探すことが一番難しい。しかし、それを考えずに起業する人も非常に多いのです。特に、長年勤めた会社を辞めて起業する人にはそういう方が多いと感じます。

マーケティングもせずに、「これだけ性能と品質が良い製品なので売れるに決まっている。」という大企業がいまだにあるぐらいですから、起業しようとする人が、買い手のことを考えずに突っ走るのも無理はないのかもしれません。

ただ、事務所を借りたり人を雇ったりすると、あっという間にお金はなくなります。起業するには、考えるばかりではなく行動が大事ですが、勢いだけでこうした固定費(*)を費やすと、すぐに資金が尽きて失敗してしまいます。(*賃料や給料等、売上に関係なく発生する費用)

Bさんは、現地の農園にコネクションがあり、良い豆を仕入れられるようなので、調達面は問題がないようですが、日本国内での販売についてはほとんど何も考えていませんでした。

「とりあえずカフェを作ってそこでカカオ豆を使った商品を提供し、もう一つのビジネスとして考えている介護ビジネスも会社でカカオを加工して健康食品として売る。そのためにも、まずはベトナムに事務所を設立したい」と、良く言えばとても大きな構想を描かれています。

小さな失敗を繰り返す

そこで、現地で法人を作った場合、誰が運営するのか、日本で商品を販売するターゲット層はどんな人か、販売までのスケジュールは決まっているのか、拡販は誰がどのように行うのか、アイテムや価格のイメージはあるか、日本でどのような法人を設立し、今働いている企業での仕事はいつまで続けるつもりなのか等々の質問をしていくと、Bさんは、これまで考えていなかったいくつかのことに気づいたようです。

やりたいことはいろいろあっても、体はひとつです。日本で販売ルートを開拓するには時間がかかるでしょうし、ターゲット層や商品コンセプト、価格等を明確にしなければ、どんなに良い商品でも売れません。輸入するために現地に会社を作っても、販売の目途が立たなければ、賃料や現地で採用した人の給料も払えません。

Bさんは、「まずは現地から商品を輸入して、日本でどの程度売れるか試してみることから始めた方が良いですかね?」、「私はベトナム人のコミュニティとつながりがあるので、彼らと仕事をする中で、将来、現地の会社を任せられる人が見つかるかもしれない。」等々、いろいろとアイディアが出てきました。

起業したいと思っている人は、自分のアイディアや構想にある程度の自信をもっています。ですから、うまく行かないと思うようなアイディアであっても、それを真っ向から否定されると反発して、自分が思う方向に突っ走ってしまうこともあります。もっとも、専門家に相談して「それはうまく行きそうですね!」といわれるようなアイディア程度ではまず成功しませんから、突っ走っても良い場合もあるのですが。

ただ、突っ走るにしても、販売の目途や計画もなく固定費をかけると、 手元資金はあっという間になくなります。そうなってから「どうすればよいでしょう」と相談されても、できることは限られてしまいます。

運動不足のお父さんが、一念発起してスポーツジムに通うなら、ウェアやシューズ等を揃えて、形から入っても良いのでしょうが、ビジネスを始める場合は、「まずは事務所から」などと、形から入っては危険です。

普通の人の起業は、泥臭く、少しずつ範囲を広げながらやってみること、そして、失敗は早めにすることが肝心です。「これからビジネスをやるのに、失敗しろとはどういうことか!」と怒られるかもしれませんが、思いついたアイディアを実行して、一度で成功することはまずありません。皆さんが知っている起業家も、今の地位を築くまでに何度も何度も失敗しています。

ちょっとやってみて失敗する、次にやり方を変えてやってみて、また失敗する。こうした失敗を繰り返すことで、だんだんとコツがつかめてきますし、早く失敗すれば軌道修正もすぐにできます。そのためにも最初にかける費用はできるだけ少なく抑えなければなりません。手元の資金を使い果たしてしまってから失敗したのでは、目も当てられません。素人がいきなり勝負に出るのは危険です。

小さな失敗を繰り返しながら、その都度、誰かにアドバイスをもらうのも良いと思います。周りに起業経験者がいるなら、是非話を聞いてみましょう。もし誰もいなければ、都道府県や大きな市には中小企業の経営や起業の相談を受け付ける窓口があります。そこで、自分がやろうとしているビジネスを客観的に見てもらいコメントをもらうと、何らかの気づきが得られるかもしれません。

但し、相談を受ける専門家のほとんどは、起業経験があるといっても税理士等の士業かコンサルタントです。小売りや物販等で起業した経験がある人は少ないので、あまりアドバイスを聞きすぎない方が良いです。過度な期待をせず、壁打ち相手になってくれそうな人を探すか、財務、知財、法律、貿易事務といったルールや知識を得るため程度に考えて下さい。

因みに下記は、いくつかの地域の創業相談が可能な公的機関です(クリックすれば、サイトに飛びます)。このような相談ができる公的機関は各都道府県に必ずありますので、ぜひネットで検索してみて下さい。創業だけでなく、法律や税務、労務等に関しても専門家が無料で相談を受けてくれますので、お金を払ってセミナーを受けようと思っているぐらいなら、まずは相談してみると良いと思います。

 

横浜企業経営支援財団(横浜市)

STARTUP HUB TOKYO(東京都 )

埼玉県産業振興公社(埼玉県)

千葉県産業振興センター(千葉県)

にいがた産業創造機構(新潟県)

 

 

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