企業は社風を変えられるのか(15)~ダイバーシティ、インクルージョン

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多様化と画一化

嘗て、日本の企業は、多様化とは程遠い組織でした。女性の管理職数や外国人の役員はほとんどおらず、従業員は、正社員とアルバイト(パート)だけ、企業で派遣社員が働けるようになったのは、労働者派遣法が施行された1986年以降ですから、派遣社員という人は昭和の時代にはほとんどいませんでした。

新卒で入社した銀行の従業員構成は、世界中のどこにでも赴く男性の総合職、「結婚したら退職」前提の女性一般職、そして主婦のアルバイトという構成でした。国際部門であっても稟議書や報告書は日本語で回覧され、海外拠点の報告書が本社に回覧される時は、ご丁寧に日本語でポイントが書かれていることもあったぐらいですから、外国人の管理職など当然いません。それどころか、当時は中途採用者も殆どおらず、初めて外部出身者が役員になった時は、「うちの銀行も変わったなあ」と驚きました。

多様化の反対語が画一化だとすると、まさに昭和時代の企業組織は画一化されたものでした。辞書によると、画一化とは、「個々の事情や個性を考慮に入れないで、全てを一様にそろえること」とあります。大量生産、大量消費時代には、同じ価値観を持つ人たちで事業を推進することがベストな経営だったかもしれませんが、大量生産やモノカルチャーで勝負することが難しい時代になってきています。サービス業同様、製造業の世界でも、ソフト化と短サイクル化がどんどん進んでいるからです。

こうした世界では、変革(イノベーション)を興すことが重要ですが、同じ価値観を持った人ばかりの組織では、イノベーションが生まれにくい。そしてイノベーションが起こせず、単に同じモノを作り続けるだけの企業は、これから生き残ることが難しくなります。

前回、30%クラブの話をしましたが、「企業の取締役会やマネージメントチーム等、意思決定機関において健全なジェンダーバランスを保つことが、ガバナンス強化や企業の持続的成長の促進につながり、それが、日本企業の国際的競争力の向上、ひいては持続可能な日本社会の構築に寄与する」というクラブ理念の通り、「健全なジェンダーバランスを保つこと」は企業が多様化する第一歩ではあります。しかし、女性取締役を数名増やすだけでは、日本企業の国際競争力は向上しないと思います。

なぜなら、組織の意思決定を行う人が女性に変わっても、その女性が、同じ価値観を持つ企業や人の中で長年働いてきた人であれば、決定された内容は男性とそう変わらないはずだからです。女性が管理職として企業で昇格するに従い、少しは社風が変わるでしょうが、限られた数の女性社員だけで、長い年月をかけて築かれてきた大企業の社風を変えることはできません。もっと言うと、そのような企業で女性幹部になったということは、(本人が望んだかどうかは別として)企業の社風に染まった人だからかもしれません。

多様化とは、単に人種や国籍、年齢、性格、学歴、夫々が築いてきたキャリアや志向する働き方等が異なる人材を企業が広く受け入れることから始まります。そして多様化を推進するには、受け入れた人材が活躍できる環境に組織を変化させていく必要があります。

性別だけでなく、中途採用や外国人、障碍者、派遣社員、パートの従業員、若手社員や75歳のシニア社員、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まった組織で、お互いの個性や考え方、能力を理解し、認め、活かしあい、シナジーとしてつなげていく、そのような風土を作る組織のマネジメント。

昨今はこうしたマネジメントを「インクル―ジョン」と呼ぶようですが、多様化(ダイバーシティ)をインクルージョンにつなげていくことが、企業のガバナンス強化や持続的成長の促進につながり、それが、日本企業の国際的競争力の向上、ひいては持続可能な日本社会の構築に寄与するのだと考えます。

多様化で組織は強くなる

私が、最初に多様化の必要性を感じたのは大学のクラブ活動でした。所属したクラブは、毎年附属高校からも多くの経験者が入部する強豪校でした。附属高校の経験者が多いとチーム力が上がるはずですが、不思議なことに、附属校経験者の多い学年が良い戦績を残すわけではありませんでした。むしろ、未経験者や地方出身者が幹部をしていた学年の方がチームのまとまりが良く戦績も良かったのです。

当時は何となく、「チームが強くなるには、異質な人がいた方が馴れ合いがなくて良いのかな」程度に思っていたのですが、振り返ってみると、ひとつひとつのプレーや練習方法に関して、附属高の経験者は「フットボールではこれが定石」という枠のようなものがあるのに対し、さまざまなバックグラウンドを持つ附属校以外の人間が、他の競技の戦術をアレンジしてプレーに取り入れたり、さまざまな角度からプレーに幅を持たせる努力をしていました。こうしたことのひとつひとつがチームに刺激を与えていたのだと思います。

選手だけでなく、ヘッドコーチになると組織に与える刺激はもっと大きくなります。同じ大学のOBがヘッドコーチを務めるよりも、他大学の出身者がヘッドコーチになった時の方が、練習メニューやストレッチの一つ一つが新鮮でした。私は社会人、実業団でもフットボールを続けたのですが、関西の強豪校出身のコーチの指導方が出身大学と全く異なっていたことにかなり衝撃を受けました。組織が変革を続けて行くには、影響力がある役職になればなるほど、多様な価値観を持つ人が必要だと感じます。

入社した銀行でも、多様化が組織にもたらす力を感じることがありました。当時は今と違って、コンサルティング会社や外資系金融機関は、新卒で入社するような会社ではなかったため、今ならこうした企業を選ぶであろう優秀な学生の多くは官僚や商社、銀行を志望していました。ですから、当然私もそんな企業は志望しませんでしたが、就活解禁日の前日、なぜか銀行から声がかかったのです。4年間、大学よりグラウンドに通う方が多かった学生になぜ声がかかったのか。当時は個人情報とかコンプライアンスなどという意識はほとんどなかったため、大学のゼミやクラブの名簿が出回っていたからです。

当時私はスポーツ新聞の記者になりたかったので、銀行には全く興味がなかったのですが、せっかく呼ばれたなら、面接の練習でもするかと、冷やかし半分で面接に行きました。

そして、その面接の席上で、「なぜ私に声をかけたのか?銀行は優秀な大学出身者や学業が優秀な人だけを採用すれば良いではないか」と尋ねました。するとその面接官はこう答えました。

「同じタイプの人材だけでは組織は強くはならない。ペーパー試験には必ず答えがあるが、仕事では答えがない問題にぶち当たる。答えがある試験が得意なだけでは、それには対応できない。これからは、答えがない問題を解決する力が問われる時代になる。だから勉強だけでなく、スポーツや芸術、趣味や、他人から見たらくだらないことを必死にやった経験がある学生の中から、その力がありそうな人を探す必要があるのだ。」

当時、就活生の間で体育会出身者は、体力や忍耐力だけを期待される「ソルジャー」と呼ばれていたので、私にとって、この回答はかなり衝撃でした。

ただし、その面接官はこうも付け加えました。

「でも、体育会出身者って入社してからも勉強しないんだよね笑」、、、(おっしゃる通りでした)

結局この銀行に入社するのですが、何と入社してから1年後に、フットボールチームが作られてしまいます。「やっぱりソルジャー採用じゃん」とは思ったものの、入社後わずか3年で希望通り海外拠点に配属となったので、当時の面接官の言葉はまんざら嘘ではなかったのかもしれません。

何れにしても、強い組織を作るためには、常に変革を続けることが必要、そのためにも、組織にはダイバーシティとインクルージョンが重要です。

実際に、さまざまな企業の経営に携わった経験から言うと、ファンドに買収された企業のほとんどは多様性に欠ける企業です。こうした企業に経営陣として入り込み、再生・成長させる場合、過去のやり方を捨て、新しいことにチャレンジする気概を組織に持たせ、行動させなければなりません。その際、異質な人材を投入することは非常に効果的です。

同じことを同じように続けていれば良かった従業員に、新しいことにチャレンジする気概を持たせることは大変です。いきなり「やり方を変えろ」と言っても何も変わりません。彼らは「自分たちは経営者の指示を忠実に守ってきただけ。業績の悪化は自分たちの責任ではなく経営者の責任だ」と思っているからです。

しかし、そういう人たちでも、環境が変わればそれに適応せざるを得ません。長年男性が中心だった日本企業に、これまでとは異質な経営陣、異質な外部人材、女性や外国人、障害を持った人材を職場に投入すると、「あうんの呼吸」は通じなくなり、事業を推進するためのさまざまな工夫が始まります。

 

⇨ 企業は社風を変えられるのか(16)~固定観念を変えるには

⇦ 企業は社風を変えられるのか(14)~多様化が組織にもたらすもの

 

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