企業は社風を変えられるのか(13)~「もったいないお化け」を退治しよう

Pocket

「いつか使うかも」

昔、「もったいないお化け」というACジャパンの広告がありました。子供たちが、「これは嫌い」、「これも嫌い」と嫌いなものを残すと、その夜に「もったいね~、もったいね~」と言いながらお化けが出てきて子供たちを震え上がらせます。翌日から、子供たちは何でも残さず食べるようになりました、というようなストーリーだったと思います。

ところで、企業にも「もったいないお化け」がいます。と言っても食べものを捨てると出てくるお化けではなく、「いつか使えるかも」、「余計に作ったけどいつか売れるはず」と、なんでも取っておく「お化け」です。10年も20年も前に作った売れない製品や、仕様変更されて使えなくなった部品を大事に保管している。倉庫をきれいにしようとすると、そうしたものがたくさん出てくる会社があります。

こういう話をすると、皆さん「そんな無駄なことしてるの?」って思うかもしれません。工場だけでなく、オフィスでも、この「もったいないお化け」的なモノは至る所に出没します。

例えばホワイトボードで使うペン。いざ使おうと思ったら、インクの出が悪くてしっかり書けないという経験をしたことはないですか。インクの出が悪いと、ホワイトボードを使う人は使えるペンを探さなければいけません。何本も置いてあるペンの中から、「これ使えるかな?」とか思いながら、いくつかのペンを試してみる。そういう時間こそ無駄なのに、使えないペンをわざわざ捨てずにおいておく。

自宅のトイレットペーパーがなくなっているのに交換しないのと同じようなことですよね。「インクが出なくなったな」と思ったら、何故捨てないのでしょうか。

「もったいないお化け」とは少し異なりますが、いつ使うかわからない書類を机の中にため込んでいる人、パソコンの画面に溢れるほどのアイコンを貼り付けている人、メールを送信する際、すごい数の人にCCを入れる人も同じような感覚なのではないかなと思います。

そして業績が悪い会社では、こうした行為をする従業員が驚くほど多いのです。

さっさと捨てる

「いつか使うかも」、「誰かが捨てるだろう」、「取り敢えず送ろう」と思って、このような行動をする人は、決められない人です。少し前に断捨離やミニマリストという言葉が流行りましたが、「捨てる」かどうかを判断するには、自分で考える必要があります。業績が悪い会社には、自分で考えられる人が少ない、もっと言うと、「誰かがやってくれる」、「誰かが捨てるだろう」と思っている人が多いのです。それこそが業績が悪い会社の社風であり、悪化の大きな原因です。

もしかすると従業員は、「会社からコストを削減しろと言われているから、最後まで使おうと努力している」と思っているのかもしれません。しかし、それこそ無駄な努力です。

ある会社では、事務の女性がひたすら使用済みコピー紙をメモ用紙にするために裁断していました。その使用済みコピー紙には、顧客宛の見積書や会議資料もあったので、そんなものを再利用して良いのかという問題も別にあるのですが、それよりも、事務の女性が1時間も2時間もかけてメモ用紙を作っていることを、誰も不思議に思わないという点が、私にとっては信じられないことでした。

彼女たちは彼女たちなりに、コスト削減に貢献しているつもりですから、これはマネジメントの責任です。マネジメントがやるべきは、間違ったコストの削減ではなく生産性の改善です。そもそもコピー用紙の再利用や、使えないペンを何本も使い続けることなど、コスト削減ではなく生産性の改悪でしかありません。そのようなことを放置しているから、前述のように、何でも保管しておく文化が生まれます。

こうした会社の多くでは、メンバーシップ型企業であるにもかかわらず、人材のローテーションがあまり行われません。従業員は、基本的には同じ職場で働き続けるため、その職場しか理解できず、かといってその道のプロでもなく、結果として部署の最適化だけを考える人材ができあがります。その結果、部署間に壁ができ、組織を横串で考えたり、全体最適という視点で考えられる人材が育たないということになります。

大量生産、大量消費の時代であれば、それでも良かったかもしれません。下請け会社は、元請け企業からのオーダーを如何に早く効率よく裁くか、そのために、人間の作業を単純化して機械のように使うことで生産性を向上させてきました。従業員があまり考えなくても、元請けの言う通りに、決められた作業のスピードを上げ、目先のコストを下げる工夫をすれば利益が上がる時代でした。

しかし今は違います。毎年厳しいコスト削減要請を受ける一方で、原料費やエネルギーコストは上昇、人材も思うように採用できません。そして、BCPの観点等もあり、元請け会社からの仕事量が他社に分散したりする状況下、これまでのように薄利多売のビジネスでは生きていけなくなっています。そのような環境で、経営者が従業員に、「考えろ」と言ったところで、社員は何を考えて良いのかすらわかりません。長年、新しいことに取り組まない、言われたことだけをやる、更には新陳代謝も起こらない組織では、経営者自身も考える能力が欠如してしまっています。経営者は従業員に「考えろ」と言うだけで、具体的に何を考えるのかも伝えることができません。

こうした会社で経営者が行うことは、まずモノを捨てさせることです。

倉庫にたまったいらないものを整理して捨てる、インクが出にくくなったペンはその場でゴミ箱に捨てる、書類は必要なモノとそうでないモノに分け、不要なものは捨てる。

従業員にとって、捨てるという判断をすることは、とても勇気がいることです。ですから、最初は「これは必要です、あれも必要です」と言って、なかなか捨てることはできません。その場合は、マネジメントがひとつひとつ話を聞き、なぜ必要なのか、次はいつ使うのか、等々を詰めていかねばなりません。そうすると、大抵のモノは不要となります。中には捨ててしまい、「ああ、とっておけば良かった!」というものもあるでしょう。でも、その失敗の繰り返しで、従業員は自分で何を捨て、何を取っておくかを考えるようになります。

「うちの社員は考えない」と嘆く会社の経営者は、モノを捨てさせ、「もったいないお化け」を退治することから始めて下さい。

 

⇨ 企業は社風を変えられるのか(14)

⇨ 中小企業が成長する組織図の作り方③~組織図を書く前に

⇦ 企業は社風を変えられるのか(12)

管理職のための KPIと財務【入門編】

↑↑↑Amazonのサイトはこちらから(Click )

経営者や管理職は、攻めと守りの数字を理解する必要があります。「今月の売上目標は〇〇百万円を死守!」と気合を入れるだけでは目標は達成できません。目標を達成するためには、「何が達成の鍵で、それを何回ぐらい行えば目標に達するか」を理論的に数値としてはじき出す必要があります。

そして行動計画を作成する際は、その行動が利益につながるものなのか、かけるべきコストかどうか等財務や管理会計の基礎を理解しておく必要があります。

本書では、売上目標を達成するためのKSF(Key Success Factor)の見つけ方、行動計画への落とし込み方といった「攻めの数字」と、赤字でも販売すべき場合とはどのような場合なのか、大口の受注はどこまで値下げして受けるべきか等の「守りの数字(管理会計)」について経営者や管理職が押さえておくべき点を学ぶことができます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です