M&A仲介会社のコンプライアンス意識

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コンプライアンス意識の欠如

2月14日付の日本経済新聞に、日本M&Aセンターで売上高の不正計上が83件も発見されたという記事が掲載されました。同社は中小企業のM&A業界ではNo1の企業で、昨今のM&Aブームに乗って業績を大きく伸ばしています。(M&A仲介会社の活動については、鼻息が荒いM&A仲介会社を参照下さい)

どのような不正が行われていたかというと、M&Aの最終契約が完了する前に顧客の署名を不正にコピーする等によって契約書を偽造し、それを管理システムに登録することで、まだ取引が完了していないにもかかわらず、売上高を計上していたようです。報告書を読む限り、そもそも、こんな売上計上基準で大丈夫なのか?という気もしますが、詳細は日本M&AセンターのHPに「調査委員会の調査報告書の受領及び公表に関するお知らせ」として65ページに渡り掲載されていますので、興味がある方は、そちらをご覧頂ければと思います。

日本M&Aセンターは、ダイヤモンド社の「年収が高い会社ランキング2021年度版」では、平均年齢が34.3歳にも関わらず、平均年収が21位の1,243万円と、日本でも有数の年収が高い会社です。

会社の平均年齢が34歳で、これだけ平均年収が高いということは、仕事がかなりハードな営業会社だと想像できます。実際に同社の営業員の目標は非常に高く、昨今は「コロナを言い訳にしない!」というスタイルで営業目標の達成を目指していたようです。

今回の不正に関しては、営業担当者や管理職など80人が関与していたらしく、不正の発生時期は2021年3月期が35件、2022年3月期(今期)が39件とコロナ禍発生以降が大半となっています。また、報告書の中にある社員アンケートの結果では、不正が行われた要因は、個人が自分の報酬や昇格を求めてではなく、「部の要請に応えたいと思った」、「部長からの指示を受け対応した」と答えている社員が圧倒的に多くなっています。この人数やアンケート結果を見る限り、社内では「会社のために仕方なく」という名目で、不正が公然と行われていたのではないかと思ってしまいます。

一応は金融関係の会社であることを考えると、このコンプライアンス意識の欠如は驚くべきことです。

信頼と信用

金融機関のようなサービス業は、製造業と違って、基本的には自分でモノを創り出しません。質の良いサービスを提供し、その対価として手数料や金利を受け取ります。どのようなビジネスでも当然ですが、とりわけ金融ビジネスで最も大事なものは「信頼」や「信用」です。お客様やステイクホルダーとの間に信頼や信用がなければ、金融ビジネスは成り立ちません。

同社の社長は報酬をカットするらしいですが、大株主として配当の方がはるかに大きいはず。報酬がなくなって痛くもかゆくもないでしょう。因みに同社が修正した2022年12月期の売上高は約13億円、経常利益は約11億円です。同期の修正は39件ですから、平均売上(手数料)はざっくり33百万円、しかもこれだけ高い売上高経常利益率です。このような企業が日本の中小企業のM&A市場を牛耳って、企業から多額の手数料を取っているのかと思うと本当に腹立たしい気持ちになります。(☞こんなに高額!M&A手数料

「一応は金融会社」と言いましたが、実態はかなりお粗末だと思われます。基本的な金融の知識もない若手がコンサルタントと称してインセンティブとノルマが与えられ、研修の機会もほどほどに日本全国を飛び回って案件をこなしているのでしょう。同社のIR資料を見ると、2020年3月期のコンサルタント職は390人ですが、2022年12月には577人に増加しています。わずか1年9カ月で187人も新任コンサルタントが増加している。当社の離職率は非公表ながら非常に高いようですし、平均勤続年数が3~4年と言われています。ですから、この期間に辞めている人を考えると、全体の4割弱のコンサルタントが、ほぼ新人のような状況です。そして彼らの51%は人材会社や商社、メーカーといった金融以外の業界からの転職者。(データでわかる日本M&Aセンターより)

こういう人たちが、例えば現社長が一代で築き上げた愛着ある企業や、長い歴史がある地方の中小企業の売買を仲介するわけです。

M&Aの仲介業には資格は必要ありません。不動産の売買仲介を行うには宅建資格が必要なのに、不動産を所有している会社を売買する場合は、誰でも仲介ができてしまいます。ですからこの業界には会計や税務の知識どころか、B/SとP/Lもまともに理解できていない人がM&Aの仲介を行っていることもあります。兎に角大きなお金が動きますから、さまざまな人が集まって来るのです。(M&Aの資格等に興味がある人はこちらをご覧下さい ☞「事業承継、事業再生、M&A関係の資格を取りたい!」という人のために 改訂(1)

今回、同社の闇の一部分が浮かび上がりました。ただ、これだけコンサルタントを採用し、事業が成長しているということは、日本の中小企業のM&Aニーズが、加速度的に増えているということです。

今後同社と提携している地方の金融機関や会計事務所等々がどのような判断を下すかが気になりますが、実態を知る身からすると、恐らくほとんど取引には影響がないんだろうなあとちょっと悲しくなります。(M&A仲介会社と地方銀行の関係については、こちらをご覧下さい。☞地方銀行はM&A仲介会社の宝箱で良いのか①

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