企業は社風を変えられるのか(3)~住む場所を変え、見える範囲を変えてみる

増える地方への本社移転
企業が変わる方法の二つ目は「場所」です。
2020年の秋にパソナグループが発表した、本社の淡路島移転は大変話題になりました。対象は、経営企画や人事、IT部門等、本社機能を担う1,800人の3分の2に相当する約1,200人。登記上の本社は東京に残すものの、重要事項を決める取締役会を島内で開く等、経営の中心は淡路島に移転する大胆な計画です。
パソナグループは2008年から淡路島で就農支援を開始、2017年にはアニメや漫画の世界観を再現したテーマパーク「ニジゲンノモリ」、今年8月には劇場とレストランを併設した「青海波」を開業しています。パソナグループでは、これらの施設やオフィスで、約350人が働き、役員の4割に当たる10名以上がすでに淡路島を拠点としています。神戸市出身の南部靖之代表も今年1月から本格的に島内で執務を開始しているようです。
帝国データバンクの調査によれば、2021年1~6月間に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)外へ本社を移転した企業数(個人事業主、非営利法人等含む)は186社でした。6月時点で150社超となったのは過去10年間なかったことで、企業が首都圏外へ本社を移す動きが加速していることがわかります。
移転した企業の転出先で、最も多かったのは「大阪府」の22社。次いで「茨城県」(19社)、「静岡県」(16社)、「北海道」(14社)となっています。総じて首都圏から離れた大都市などに移転先が集中する一方、首都圏に隣接する茨城県・栃木県・群馬県の北関東3県へ移転する企業も多いようです。
首都圏からの本社移転が増えている理由は、新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワークの常態化でしょう。コロナウイルスの感染拡大でオンライン会議等が積極的に活用されるようになると、リモートでも意外と業務に支障が無く、使い勝手も良いことがわかりました。またリモートワークは、企業にとってはオフィスや通勤関連費用の縮小が図れ、社員にとっては、通勤に費やす時間が削減できるだけでなく、どこにいても仕事ができる便利さがあります。
そうした点が明らかになったことで、首都圏での生活コストの削減や通勤負担減などの観点からも、リモートワークの更に先を行く、地方への本社移転や社員の移住を検討する企業が増えています。
新しいインスピレーション
企業が場所を変えると社員の仕事のやり方や行動パターンが変わります。例えば、オフィスを移転する場合は、まず机やキャビネットを動かさなければなりません。そうなると当然、要らないものは整理するようになりますし、長年働いていた場所ではやらなかった書類の整理も、新しい場所に移ると綺麗にファイリングされたりします。
ある大手のスーパーは、ほぼ3年ごとに本社を移動していました。なぜそれほど頻繁に本社を移すのかと社長に聞いたところ、「いらないモノを捨てさせるため」との答えが返ってきました。デスクワークが主体の社員は、長く同じ場所にいると書類を溜め込み、本当に必要でない書類やモノが増えてしまいます。そのうちキャビネットや倉庫が資料でいっぱいになり、そのために新たな倉庫を借りることもあったそうです。保存が必要な書類であれば別ですが、あまりに書類が多いと思った社長は、一定期間でオフィス自体を移転すれば、本当に必要なモノだけになるのではと考えました。そこで、「3年に一度オフィスを移転する」と宣言したところ、書類を入れる段ボールの数が激減しただけでなく、作成する資料の数や打ち合わせの時間も減る等、これまで見えなかったさまざまなコストが減らせるようになったと言っていました。
オフィスの場所が変わると社員の気持ちも新しくなります。首都圏から離れた場所であれば、通勤手段や時間も変わります。都心と違い、通勤時間が少なくなる分、プライベートの時間が増えますし、地代が安いので、オフィススペースは都心にいた時よりもずっと広くなるでしょう。緑豊かな地域に移動すれば、今まで考えたこともなかったような、新たなインスピレーションが湧いて来るかもしれません。
そうした新たなインスピレーションは、企業にとってとても重要です。人も企業も、場所が変わると仕事のやり方が変わるだけでなく、今までとは違うものに触れることで、新しい発想が生まれる可能性があります。常に同じ場所にいて、同じことばかりしていては、新たな発想に辿り着くことはないのです。
かくいう私も、これまで30回以上住居を転居してきました。企業の成長にオフィス移転はつきものですが、不思議なことに、駐在した国や新たに転職した先の企業では必ずオフィスの移転がありました。また、M&Aによって会社自体を移ることもありました。こうした経験が活きているのかどうかはわかりませんが、常に現状や今あるモノを捨てられる、こだわらないという考え方は体現できている気がします。
「住む場所を変える」ことが自分を変革する一つの方法になる理由は、住む場所を変えるだけで目線が変わり、新しい発見やインスピレーションを得られるからです。同じところに住んでいると、目線が固定されるため、周囲の環境に対して反応が鈍くなってしまうように感じます。
ただ、個人であればまだしも、企業が本社や工場を移転することは普通はできません。ですから、企業の場合は、管理職のリモートワークを徹底したり、オフィスとは違う場所で社内会議を行ってみると良いと思います。
リモートワークをする際も、ずっと家に閉じこもって行うのではなく、WEB会議等でなければ近所のコーヒーショップで仕事をしてみる、或いは週末の休暇を一日延長して、月曜日の会議には海辺のコテージからリモートで出席する等の変化をつけてみると良いと思います。
オフィスを動かせないなら働く社員が動く。リモートワークが一般的になった今であれば、こうした取り組みはどの企業でも、かなりやりやすくなってきているのではないかと思います。
管理職のための KPIと財務【入門編】
↑↑↑Amazonのサイトはこちらから(Click )
経営者や管理職は、攻めと守りの数字を理解する必要があります。「今月の売上目標は〇〇百万円を死守!」と気合を入れるだけでは目標は達成できません。目標を達成するためには、「何が達成の鍵で、それを何回ぐらい行えば目標に達するか」を理論的に数値としてはじき出す必要があります。
そして行動計画を作成する際は、その行動が利益につながるものなのか、かけるべきコストかどうか等財務や管理会計の基礎を理解しておく必要があります。
本書では、売上目標を達成するためのKSF(Key Success Factor)の見つけ方、行動計画への落とし込み方といった「攻めの数字」と、赤字でも販売すべき場合とはどのような場合なのか、大口の受注はどこまで値下げして受けるべきか等の「守りの数字(管理会計)」について経営者や管理職が押さえておくべき点を学ぶことができます。
“企業は社風を変えられるのか(3)~住む場所を変え、見える範囲を変えてみる” に対して1件のコメントがあります。