小規模事業者にMissionは必要か

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存在意義って何ですか?

事業を行う理由は、単にお金を稼ぐだけでなく、本来、その事業を行うことで、世の中で達成したいものや提供したい何かがあるはずです。そうした事業の目的や自社の存在意義は、経営理念や経営ビジョンと呼ばれています。

多くの企業は、この経営ビジョン的なモノを持っていますが、時が経つに連れ、それらは単に壁に貼られたスローガンのようなものになっていきます。

私が経営ビジョン的なものを創るお手伝いをする際は、Mission(ミッション)、Vision(ビション)、Value(バリュー)の3つに分けます。

Missionはその会社が社会に存在する意義、VisionはMissionの達成を目指すための方法やスケジュール、そしてValueは、Misson、Visionを達成するための組織の価値感です。

Mission、Vision、Valueは、「自分たちは社会でどのような存在を目指し、どういう価値観とスケジュールでそれを達成するのか」を、組織に所属する全員が理解し、常にそれに従って行動する、組織のコアとなるものです。

新たにMission、Vision、Valueを定める際は、まずMissionを確定させます。

Missionを作る際は、「誰にどのような価値を提供することが自社の使命なのか」、「顧客にとっての自社の存在意義とは何なのか」を考えるのですが、今まで自社の使命や存在意義を考えたことがない経営者に、「さあ考えて下さい」と言ってもなかなか難しいものがあります。

そこでMissionを作成する時は、下記の質問に自問自答する形で考えてもらうようにしています。

 ① 自社にとってお客様はどんな人たちなのか
 ② 自社はどういう価値をお客様に提供できるのか
 ③ 自社はなぜその価値をお客様に提供する必要があるのか
 ④ どのような方法で価値をお客様に提供するのか
 ⑤ 他社と比較して自社が誇れるものは何か
 ⑥ 自社は社会に対してどのような価値を提供できるのか
 ⑦ 経営者はこれらの価値を提供する社員に、どのような姿勢で接するのか

7つの質問に答えた後は、お客様の気持ちになって次の2つの質問に答えます。

 ① この企業の顧客になりたいと心から思った理由は何か
 ② この企業の顧客となった結果、どのような素晴らしい体験ができたか 

ポイントは、単に「思った」ではなく「心から思った」、「良い経験」ではなく「素晴らしい経験」です。

自社が、社会に対して提供できると思っている価値と、お客様が感じるであろう価値が、世の中に既に存在している同じような商品やサービスと比較しても、格段に素晴らしいモノとなるかどうかを自問自答するのです。

牛乳屋さんの事業再建

関東近郊で牛乳の宅配を行うY社の経営の建て直しを依頼された際も、まず最初にMission、Vision、Valueを創りました。

支援当時、Y社には様々な問題がありました。

従業員が連絡もなく休む、たばこを吸いながら商品を宅配する、宅配ボックスを掃除しない、事務所にいても電話に出ない等々、数え上げればきりがありません。経営者もうるさく言って辞められると困るので、何も言えない状態でした。

こうした状況ですから、経営者は毎朝3時に出社して、従業員が出社するかどうかを確認し、来ない場合は自ら配達に出かけます。配達から戻ると翌日の準備やさまざまな事務作業に追われ、その後、事務所をパートさんに任せ、集金やお客様からのクレーム対応等に走り回ります。早朝から夕方の配達が全て終わり、鍵を閉めるまで休む暇もありません。

それでも配達員は定着せず、契約者数も、スーパーやコンビニの増加によって毎年右肩下がりで落ち込んでいます。

事業がこのような状況なので、経営者は自分の息子に事業を続けさせようとは思っていませんでした。しかし長男が、「父が始めた仕事を自分が引き継いで大きくしたい」と言い始めたため、事業の建て直しを真剣に考え、公的機関に依頼があったのです。

支援を開始するにあたり、「まずはY社が何を目指すか、何のために存在しているのかをハッキリさせましょう」と言った私に対し、Y社長は「うちは大手メーカーの牛乳を配達するだけだから、そんなこと言われてもねえ」という反応でした。

確かにモノの流れとしては、出来牛乳をお客様に届けるだけです。さて、皆さんなら、Y社でどんなMissionを創れば良いと思いますか?

忘れていた想い

最初に経営者から出てきた案は、「健康に良い美味しい商品を売ること」や「お客様の笑顔をつくること」といった抽象的なものでした。しかし、「良い」、「美味しい」、「笑顔」と言ったワードでは、あまりにありきたりで、具体的に何をすれば良いのかイメージできません。

そもそも「健康に良くて美味しい商品」はメーカーが作ったモノです。それを単に「売る」ことは、今でもやっています。それに笑顔を作るのはお客様です。お客様を笑顔にするために何を行うべきなのかを考えなければなりません。

そこで経営者だけでなく、将来事業を継ぐ長男も入れて、上記の 7+2の質問に自問自答する形で再度考えてもらいました。

7つの質問と2つの質問を熟考して出てきたものは、
①配達のスタッフが毎朝、最高の笑顔で牛乳を届けてくれるから
②牛乳宅配ボックスがピカピカに磨かれていて朝から幸せな気分になれるから
③配達時に家族構成を考えた健康情報を届けてくれるのが楽しみだから

といった、経営者が「こうありたい」という“想い”でした。

元々Y社長は「所詮、自分たちはメーカーが作ったモノを運ぶだけ、自ら何かを作り出せるわけではない。従業員がたばこを吸っていようが、態度が悪かろうが、モノを届ければそれで仕事は終わり。そんな価値のない仕事だから儲かるはずもないし、そんな仕事を子供に継がせても良いのだろうか。」と思っていました。

しかし、「Y社の顧客になりたいと心から思った理由は何か」、Y社の顧客となった結果、どのような素晴らしい体験ができたか」を長男と話あっているうちに、「お客様がこんなことを思ってくれていれば良いなあ」、「そう思っていただけるようにこんなことをしたいなあ」という、これまで忘れていた想いに再び気づき、前述の3つが出てきました。それをベースに創ったMissionが下記の図です。

図表 :ミッションの創り方

 

私は依頼を引き受ける際、Y社長が地域誌に掲載された記事をネットで見つけました。その記事には地域への貢献や、今後店舗数を増やし業容を拡大させたいという想いが溢れていました。私が行ったことは、経営者が忘れていたこうした想いを再び引っ張り出し、言葉に変えてMissionとして落とし込んでもらっただけです。

現在、Y社長と長男は、自分たちが創ったMissionを毎朝確認し、それを従業員に浸透させることに力を入れています。また、これまでクレーム対応の時しか行っていなかったお客様を能動的に訪ね、その声を聞く活動を始めています。

従業員に辞められたら仕事が回らないと何も言えなかった経営者が、自ら行動し従業員に想いを伝えるようになったことで、社内の雰囲気も変わってきました。

経営者と長男が、考えに考え創ったMissionは、今後、Y社を再興する際の支えとなるはずです。

自らのMission

先日、企業をハンズオン支援している方々とお話する機会がありました。この方々は、小規模から中規模企業で、さまざまな支援を、まるでその企業の社員のごとく行っており、Hands-onと言うよりBody-onとでも言っても良いような関わり方をされています。

お話をしていて気づかされたことはいくつもあるのですが、その中でも感銘を受けたのは、この方々が純粋に自らの価値観に基づいて、小中規模事業者の支援を継続していることでした。小規模事業者の支援はお金になりませんから、支援する人は公的機関等に限られています。しかし、公的機関の支援だけでは、それほど深く企業の入り込んだ改革はできません。

そうした企業に、ほぼBody-on的な関わり方をされている方々がいることに驚きました。

その活動を伺うにつれ、自分が何を目指して今の仕事をしているのか、自ら定めたMissionに本当に従っているのか、更に言えば、Missionとして掲げたことを見直す必要はないのか等々、さまざまなことを考える良い機会になりました。

MissionやVisionは自分が置かれた環境や、社会のニーズの変化に伴って変える必要がでてきます。一度作ったら終わりではなく、常にそこに立ち返り必要があれば見直す。そうすることで、自らが本当に社会に提供できるものや、やるべきこと、存在意義が再確認できるはずです。

『中小企業支援者のためのM&A・事業承継入門』

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後半では、小規模M&Aのビジネスモデルに基づいた事業計画の作り方とその根拠を説明しています。ビジネスモデルの作り方や事業計画の策定マニュアルとしても参考になるはずです。

⇨ Missionが先か、Visionが先か

⇦ 中小企業の1on1(One on One)

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