中小企業経営者には「やらない我慢」が大事

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「任せること」とは「やらないこと」

以前、「考える社員を育成したければ、経営者は我慢して経営の一部を社員に任せ続けることが必要」というお話をしました。

経営者の中には、部下に任せるよりも自分が手を動かした方が早いため、任せることを面倒に感じる人が多くいます。そういう人は、任せる経験をしていないため、誰に何をどこまで任せれば良いのか理解していません。

人に任せることができなければ、組織は大きくなりません。そうなると企業の成長は経営者の器の大きさまでで止まります。経営者がどれほど優秀であっても、中小企業が中堅企業、大企業になれない理由はここにあります。

部下に「任せること」とは、責任者が「やらない」ことです。

ある企業は、部署の連携を強化するために情報共有を重要視していました。全ての社員は、日報やさまざまな情報を社長や関連部署にメールで共有しています。

このため、社長の受信箱には朝から山のようにメールが届きます。社長は、それらすべてに対して、細かい指示やコメントを直接返信します。日報やメールの中には、承諾をもらいたい案件だけでなく、「これを社長にメールする?」というモノまでもが直接社長に届きます。

この企業には200人以上の社員がいたため、社長がメールに目を通すだけでも大変な作業です。最初に私がこの企業で仕事を始めた際、あまりに日報やメールに時間を取られている社長を見て、これでは本当に必要な情報が埋もれてしまうと感じました。

同時に社長が、市場環境や動きを見ながら戦略や組織構築を考えるといった、本来経営者が行うべきことに費やす時間がなくなることを心配しました。

社長の仕事は企業の方針を決めて社員を動かすことです。細かい作業を行うことではありません。細かい指示は各部門の責任者に任せれば良いのです。

この企業では社長が全て指示するため、各部門の責任者は社長から言われたことをまとめたり、結果を報告することだけが仕事となっていました。まさに文鎮型の中小企業です。しかし、これでは管理職や将来の経営人材が育ちません。自ら判断し決断できる人材が育たなければ、社長が引退した後、組織を率いる者がいなくなってしまいます。

そこで、社長に日報や社内メールを、しばらく見ないようにしてもらいました。

社員からの業務日報は各部門の責任者にだけ届くようにし、責任者は伝える必要があると思ったことだけを社長に報告します。同時に、社内を飛び交うメールにはCCを禁止して、必要な部署には全てToで送付するように徹底しました。

何を伝え、何を伝えないか

社長に伝えるべきことが何なのか、伝えなくても良いモノは何なのか。最初の内は、各責任者はその仕分けができずに非常に困っていました。放っておくと何でもかんでも社長に報告してしまうので、私が間に入って報告内容を聞き、ある程度仕分けをしていました。

また一部の社員は、責任者を飛ばして社長に多くのメールを送信していましたので、社長にはこれらのメールには一切返信をせずに、それらを各部門の責任者に転送してもらうようにしました。

しかし責任者は、今まで自分で考えるという訓練をしていません。「これも報告しておかなければ」という思いと、報告することで責任から逃れたいという思いで、とにかくほぼ全てのことをそのまま私に報告してきます。

そこで次の方策として、社長に報告すべき内容ではないものを私に報告してきた場合は1件に付1点を加点するようにしました。責任者が処理すべき案件を3件報告してくれば、その責任者の点数を3点になります。社長に報告しなかった事案は私が全て見て、その中で、本来社長に報告すべきものがあれば加点します。こうして各月末の累計点とそれぞれの内容について社長と私、そして各責任者がすり合わせをし、毎月少しずつこの点数を減らせるように努力を続けました。

最初の内は何を報告すべきなのかわからなかった責任者たちも、この繰り返しによってだんだんと自分の責任を理解するようになります。暫くすると、社長への報告は重要なものだけに絞られてきました。またこれにより、社員と責任者、責任者と社長のコミュニケーションの頻度が上がるようになりました。

今までは全て社長が把握していたため、責任者はメールが来ても自らアクションを取る必要はなかったのですが、今は全て自分が決断しなければなりません。自分で決断するということは、まだかなりの負担感があるようです。

逆に社長は、これまでメールに費やしていた時間を、社外とのコミュニケーションや社内をうろつきながら社員に声をかける、さまざまなことを考える等の時間に使えるようになりました。

但し最初の内、一番いらついていたのは社長です。メールを見ることを禁じられただけで、すべてのことが心配になっていました。全て私が間に入って報告することで承諾していただけたのですが、なかなか普通の企業では実施することは難しいかもしれません。

また、こうした取り組みは、すぐに成果が出るものではありません。最初は、必要な情報が共有されなかったり、重要な報告が漏れてしまったりもします。しかし我慢を重ね、月末に結果をすり合わせることで、責任者や社員は、少しずつ自分で考え、事案を処理できる様になります。

この企業では、社長が「やらない」と決めただけで、社内の情報が整理され、各責任者が自分で判断できるようになりました。その結果、社長は本当にやるべきことに割く時間が増やせるようになり、若手は率先してプロジェクトチームを作るようにもなっています。

社長が我慢をすることはとても大変です。しかし時間はかかっても、我慢を続けた先には、組織と社員の成長があります。

今回のようなケースでは間に入るコンサルタントや番頭さん的な役割の人が鍵となります。事業や社内のことをよく理解していて、組織を作るサポートができる人材がいなければ社長はメールを見ないという決断ができなかったと思います。

こうした取り組みは、事業責任者や社員も大変ですが、一番大変なのは経営者です。自分が作った企業の責任を、一時的ではあっても、誰かに任せるということは大変な心労が伴います。

しかし、続けること我慢することによって、必ず人と組織は成長します。大変ですが、社員を信じて是非やってみて、、、いや、やらないことにチャレンジして下さい。

 

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中小企業経営者には「やらない我慢」が大事” に対して1件のコメントがあります。

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