中小企業の経営は難しい①

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大企業の経営、中小企業の現場

私は、新卒で入った銀行で19年、その後ファンドの投資先企業で10年、そして独立して5年というキャリアを積んできました。

銀行では3年ほどは個人や中小企業を担当しましたが、それ以降は海外駐在と法人部門の経験が長く、担当した企業はほとんどが大手企業でした。

その後、縁あって投資ファンドと仕事をすることとなり、投資先である人材サービス会社と産業機械メーカーの経営に携わります。この2社は、売上1,000億円と600億円の上場企業で、顧客や取引先は大手ばかり、中小企業といえば自社の代理店やサービスショップぐらいでした。

2015年に独立してからは、ファンドのアドバイザーや投資先企業の経営陣として経営に携わってきましたが、これらの投資先も基本的には大手・中堅企業でした。

しかし、あるファンド出資先の消費財メーカーA社の経営に携わった際、中小企業経営の難しさを痛感することになります。

A社は創業者が一代で立ち上げた企業です。創業者は保有する株式の半分をファンドに売却した後も社長を続けていましたが、急に体調を崩して経営から退くことになり、代わりに私に声がかかりました。

この企業は北から南まで全国に16社の関連会社を持つ中堅企業で、売上は大きいものの中小企業の連合体です。

創業者は銀行から紹介された民事再生案件の企業を安く買い、低コストで生産するノウハウを買収先に移植して事業を再生します。それぞれの企業は製造工程も導入した機会もかなり違いましたが、既存の設備や人をうまく活用した低コスト経営で業容を拡大していました。

こうした経営を、傍から見て経営者に注文を付けることと、実際に自分が現場で経営を行うこととは全く異なります。私はこれまでも様々な企業で「ハンズオン」で経営を行ってきたという自負を持っていましたが、中小企業の現場の運営は、中堅・大企業の現場とはまるで違うことに面喰いました。

まず、各社の工場で「このようにできないか」「こうあるべき」と言っても、それを理解してその通りに動いてくれる人はいません。

それは責任者や従業員に理解力がないからではなく、私が言う「あるべき論」が運営実態にマッチしなかったり、やり方を相手にわかるように具体的に細かく教える力が私になかったからです。

また、直したくても人員も満足に採用できず、設備機械も古くてだましだまし使っている状況です。機械が故障しても予備はなく、予備を持つ余裕もありません。それに、現場では5Sが全く実施されておらず、実際、無駄な作業や工程管理も数多くあります。

こうした指摘は出来るものの、実際に現場で行われているやり方を、限られた資源でどのように変えれば良いのか。そもそも、現場の工程やあるべき管理方法等を詳しく理解していない私には具体的な指示ができません。

それでも、工場に行くと「こんなことやってるのか」「こればまずい!」というようなことが山ほど目につきます。しかもそれが16社分です。

ある程度の企業規模であれば、現場の責任者やリーダーと話をしながら方向性を決め、あとは現場に任せれば改革を進めてくれます。優秀な技術者や管理者がいる大企業であれば、経営者が方向性を決める必要もなく、ほとんどのことは現場が対応しています。

しかし、この企業の現場責任者は、「去年まで別の会社でパンを作って販売していました。」という人の良いおじさんや、「前任者が突然辞めてしまったので仕方なく私がやっています。」というパートの主婦だったりするわけです。

マニュアルも何もない、働いている人たちも自分がやっていることが良く分かっていない、機械のメンテナンスをしてくれる企業が倒産してしまい修理方法もわからない。仕方ないから機械を購入した韓国企業にマニュアルを送るように頼んでも、何週間たっても返事すらない。

創業者は体調が悪く、「後はファンドに任せる」と言って出社しなくなる中、そんな16社をどう改革していけば良いのか途方にくれました。しかし兎に角、1社1社の現場を見て、相手の気が済むまで話を聞き、問題と思われることをリストアップして、その中から緊急性と重要性が高いものをパートさんたちの協力も得ながら改善して行きました。

こうしたことを繰り返して何とか再建の道筋をつけ、次の株主総会で、体調不良の創業者に代わり、代表取締役に就任することとなりました。

それまでは週末は東京に帰ってきていたのですが、社長となるとそうは行きません。現地に居を構え、必要な家財道具を買い、さあこれから上場に向けて頑張るぞ!と意気込んでいた株主総会目前の1週間前。

なんと、創業者が急逝してしまいます。

 

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