中小企業の経営は難しい①~目先の売上だけを追い続けますか?

銀行からの依頼
先日、ある銀行から企業支援の話がありました。支援する会社は運送業で、社長が現場に出ながら、一人で事業を切り盛りしていますが、規模が拡大してきたのでこれからは経営に専念したいとのことでした。
都下にあるその会社は、従業員20名程度の小さな会社です。育休を終えた女性事務員には、事務所内に子供部屋を用意して子連れで働いてもらったり、ドライバーがしっかりと休みを取りながら働けるシフトにする等、働きやすい職場環境づくりに注力しています。その結果、質の良いドライバーが採用できており、顧客からの評判も上々とのことです。
社長は、これまで大手にはない小回りの良さを活かして、自ら市場を開拓してきましたが、今後は経営に専念し、業務効率を高めると同時に、新規顧客を積極的に開拓していきたいと思っているとのことでした。
経営者は、経験がまだ浅く、戦略や計画を作ることが苦手なようです。売上は伸びているものの、人件費等のコスト管理もできておらず、業務効率も悪いため、業績は赤字が続いています。それでも今後は、Eコマースの拡大により、市場は確実に大きくなることが見込まれているため、この機会を捉え市場での飛躍を目指しているそうです。
銀行からは、経営戦略の立て方や市場調査の方法等、戦略の立案からマネジメントについて、初歩的なことから支援をして欲しいとの依頼でした。
中小企業は目先のことで精一杯?
さて、銀行の方と一緒にその社長とお会いしてお話しを伺います。最初に社長から現在の会社の概要等を伺った後、どのような支援ができるかを説明しようと思い、「今回のご依頼は、今後事業を成長させるに当たり、経営戦略や経営計画の策定等を行うところから始めたいということでよろしいですか」と質問しました。
すると、「いや、経営というより、まずは売上を増やしたいので販売先を紹介していただきたいと思っています」との話をされました。経営者が面談する前に考えを変えたのか、それとも銀行がしっかり話を聞いていなかったのか、なぜ経営戦略とか市場調査といった話になったのかはわかりません。同席した銀行の方は、面談中一言も話しませんでした。
仕方がないので、社長には、「どのように新規顧客を開拓するか、どんな目標を設定し、管理し、達成するか等は支援できますが、全て自分たちでやるための方法です。単なる顧客の紹介であれば私は適任ではないと思います」とお伝えして、本件はお断りしました。
銀行や公的機関の案件を支援していると、こういうことが少なくありません。経営支援の依頼の中でも、顧客を紹介して欲しいという依頼もかなりあります。
基本的に私は、こうしたお願いはお断りしています。どういう人かもわからないのに、自分の大切な顧客や知り合いを紹介するわけにはいきませんし、そもそも例え紹介して取引ができたとしても、一時的なことでしかないと思っているからです。
長年会社勤めをしてきた方が、例えば顧問派遣会社に登録をすると、6~7割ぐらいの案件が「人脈を使って顧客を紹介して欲しい」というものです。定年になった人が、自分の信用力を使って顧問業を行うこと自体を否定しようとは思いません。しかし、個人的にはそのような支援は顧客のためになる経営支援ではないと思っています。企業が自ら成長できるようになるためには、月並ですが、水を与えるよりも井戸の掘り方を教えるべきです。
こういう話をすると、「目先の売上や利益が大変なんだよ!」と言う経営者もいます。そういう経営者の企業は、いつまで経っても業績が好転しません。
それは、企業に目的もなく、その目的を成し遂げるために計画的に動いていないからです。顧客を紹介して欲しいというのは、好意的に考えれば「兎に角、きっかけをつかめれば」という想いなのかもしれません。しかし、組織に力がつかなければいつまでたっても企業の成長はありません。
ただ、こういう経営者には、どんな正論を言っても意味がありません。
中小企業の経営支援というのは、大企業の経営と比べると本当に難しいと感じる毎日です。
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