赤字事業を辞めれば損益は改善するのか~管理会計の視点で考える

Pocket

 

辞めれば赤字は減るのか

全ての事業が儲かっていれば良いのですが、実際にはなかなかそうはいきません。どんな企業でも、儲かっていない赤字事業や製品はあります。いつまでたっても儲からない事業をどうするか、、、経営者なら頭の痛い問題です。

「仕方ないから、この赤字事業を清算しよう」、「赤字の製品を作るのをやめよう」と思うかもしれません。

でも、ちょっと待ってください。

赤字事業を辞めても、企業の業績は改善せず、むしろ悪化するかもしれません!

まず、次の問題を解いて考えてみましょう。 

 【問題】

この問題を考える際は、まず変動費と固定費を分ける必要があります。設問にある通り、Ⅹ社では、製品AとBを製造を同じ設備で従業員が作っています。製品Aか製品Bが一定数量まで増産となっても今の設備と従業員で対応することができるので、固定費(人件費、設備関連費)は変わりません。一方、変動費である材料費は売上が増えると増加し、売上が減ると減少します。

製品Aと製品Bの費用を、変動費、固定費に分けると下記のようになります。 

 

では、赤字の製品Bの販売を辞めた場合と、製品A・Bを販売し続ける場合の比較を行います。

X社が製品Bを辞めると、製品Bの売上と変動費はなくなります。しかし設備や従業員は製品Aと共有しているため、製品Bの固定費は残ります。もちろん、製品Bの販売を辞める際、従業員が整理できれば人件費は減りますが、なかなかそれは難しいでしょうし、設備はAと共有ですから必要です。

①製品Aと製品Bを販売する場合と、②製品Aのみを販売する場合のP/Lは下記の通りになります。

製品Aと製品Bを販売する①の場合、損益は0でしたが、赤字の製品Bを辞め、製品Aだけを販売する場合の損益は350千円の赤字となってしまいました。

この理由は、Bの製造を辞めると固定費は減らないからです。  

固定費を賄う

前回「 赤字の受注は断るべきか 」で、大口の注文を半額で受注するかどうかについて、限界利益の考え方をお伝えしました。損益が赤字であっても、限界利益がプラスの製品であれば、少なくとも固定費は賄われていることが理解できたと思います。今回、製品Aと製品Bについても限界利益を計算すると、製品Aは550千円、製品Bは350千円となります。

製品B単体の損益は赤字ですが、限界利益は350千円となり、この限界利益の分だけⅩ社全体の固定費をカバーしていることになります。 

このように、同じ工場や設備、人員で複数の製品を製造している場合、ある製品の製造を中止しても、中止した製品の固定費は削減できません。上記のように製品Aと製品Bが負担している固定費が900千円だとすると、製品Bの製造を中止してしまうと、製品Aが全ての固定費900千円を負担することになってしまいます。

だからと言って、このまま製品Bの販売を続けることが良いわけではありませんよね。値上げを行う、販売数を増やす、固定費のコストを下げる等々、何らかの方策を考えなければならないでしょう。(もしかしたら、そもそも固定費の配賦の方法が正しくないのかもしれませんが、ここでは考えないことにします。)

例えば、次の図のように、製品Bを辞めた分、製品Aを増産(1千個→2千個)すれば、製品Bが負担していた固定費を賄うことができ、更に損益面でもプラスにすることができるようにはなります。

もちろん、実際に製品Aを増やすとなると、販売関連費用が増えるかもしれませんので、その分は考慮が必要です。しかしこのように、費用を変動費と固定費に分解し、変動比率と固定費額から損益分岐点売上が計算できるようになれば、製品Bを辞めた場合、製品Aを何個作れば損益がプラスになるか等が計算できるようになります。。
勘と経験、そして決断力を持つ経営者が、こうした管理会計を理解できるようになれば、より正確に自社の状況を把握でき、未来に向けた戦略を立てられるようになるのです。

拙著『管理職のための KPIと財務【入門編】』では、経営者や管理職が知っておくべき財務やKPIについて、誰でもわかるように説明しています。ご興味がある方は是非ご覧下さい。
↓↓↓

 

⇨  最適のプロダクトミックスを考える

⇦  赤字の受注は断るべきか

⇦ 今さら聞けない財務と数字の話㉑~在庫を増やすと利益が増える?

赤字事業を辞めれば損益は改善するのか~管理会計の視点で考える” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です