誰でもできる売上が倍増する目標の作り方⑬~狙うべきは新規の取引拡大?

売上の構成を考えてみる
ここまでKPIや目標の設定の方法、マネジメントについて説明してきましたが、最後に、売上とは何かについてもう一度考えてみたいと思います。
「売上はお買い上げ」であるということは記事の中でも何度かお伝えしてきましたが、「売上」を構成するものについて少し考えてみたいと思います。
図表1の通り、売上は顧客数と購入金額に分解できます。「売上」を増やすためには「客数」を増やすか、「購入金額」を増やすことが必要です。
図表1:売上を構成するモノ

顧客数はどのように決まるのでしょうか。例えば店舗を経営している場合、贔屓にしてくれている既存の顧客、新たに来店するであろう顧客、そして残念ながら、他店に流れてしまう顧客がいると思います。
「既存」「新規」「流出」、この3つが客数を決める要素になります。
図表2:客数を分解する

では購入金額はどのように決まるのでしょうか。
購入金額は、それぞれの商品の価格である「単価」と、商品が何個売れたかという「品数」、そしてその品物がどのぐらいの「頻度」で売れたのかに分解することができます。
1週間のうちの1日に7つの品物が売れても、1つの品物が1週間売れ続けても、単価が同じであればその週の販売金額は同じです。
「単価」と「品数」、そして「頻度」が購入金額を決める要素になります。
図表3:購入金額を分解する

客数と購入金額が分解できれば、あとは一つ一つをどのように増やす(或いは流出を減らす)かを考えます。図表4の右側にあるのは、売上を増やすための対策です。この対策については、取り組み易いもの、難易度が高いものが其々あります。
図表4:売上を増やすために何をすべきか

まずは既存顧客のつなぎとめ
そこでそれぞれを取り組む際の難易度と、コストを点数にして合計点で順位をつけてみます。難易度が最も低いものが1点、最も高いものが3点です。コストに関しても同様に、最もコストが安いものを1点、最もコストがかかるものを3点として合計点数を出します。合計点数が低いものが、売上を増やすために、最も取り組みやすい対策となります。(図表5)
図表5:売上を増やす施策の難易度とコスト

この結果、最も合計点数が大きく、取り組みにくい対策は新規顧客を増やすこと、最も点数が小さく、取り組みやすい対策は顧客流出を減少させることとなりました。
多くの経営者は、売上を増やすためには新規顧客を増やす必要があると考えます。しかし、新規顧客の獲得は難易度が高く、コストもかかる対策です。人も資金も限られている中小企業が簡単にできるものではありません。売上を増やすためにまずやるべきことは、最も難易度が低くコストもかからない既存顧客の流出を止めることです。
ところで、経営者が最も難しいと考えていることは、既存商品の値上げではないでしょうか。値上げは難易度が高いですがコストはかかりません。実際に、値上げは利益の増加に非常にインパクトのある施策になります。
中小の製造業には、元請けからコストダウンを毎年要求され続け、仕入れ先からは原料費の値上げを価格に転嫁されるため、自社の利益が毎年減少している企業が少なくありません。しかし、殆どの企業は「値上げを依頼したら仕事を回してもらえなくなる」という恐怖心から、元請けに値上げを要請したことなどありません。あったとしても、もう何年も昔の話です。
しかし、こういう会社こそ、腹を据えて仕入れ先、販売先の双方と価格交渉を行わなければなりません。
海外では値上げは当たり前です。欧州企業は毎年のように製品の値上げを行います。原材料費や人件費は毎年上がっているので、値上げは当然と考えています。日本の人件費は海外諸国と比較するとかなり上昇率は低いですが、町工場は採用難で、採用コストも嵩みます。それでもほとんどの企業が値上げをしません。値上げをすると取引がなくなる(或いは単にそう思っている)からです。
こうした状況が続くと、企業の社員の生活が守れなくなってしまいます。そうは言っても、元請けから取引を切られてしまうと会社は倒産します。経営者にとっては頭の痛い問題です。しかし考えてみて下さい。もし下請け企業がコストが安いという理由で元請企業から仕事をもらっているのであれば、これから先、その下請け企業には未来はありません。
これまで、中国や東南アジアの製品との価格競争を強いられてきた下請け企業も多いと思います。しかし、コスト競争力を追い求めてきた元請企業のターゲットはもはやこれらの国ではありません。これからは(或いは既に)インドやアフリカ勢と競争を強いられることになります。
次回説明しますが、値上げは利益に対して大きなプラスのインパクトがあります。逆にいうと、値下げをすると利益へのマイナスインパクトは、非常に大きなものになります。少しぐらい取引量が増えても、マイナスのカバーはできません。
次に考えるべきは値上げ
背に腹は代えられない状況にある企業が最初に考えるべきことは、新規顧客の獲得ではなく、まずは既存取引の値上げです。私が経営代行を行う中で、最初に手を付けることがこの値上げ、正しくは、企業の提供する価値と価格が見合っているかの見直しです。
ほとんどの経営者は、「そんな簡単にはいかない、懇意にしてくれている取引先に値上げの依頼などできない」と言います。こう言う経営者は今まで一度も価格交渉をしたこともなく、打診をしたことすらありません。
しかし元請けや仕入れ先にとって、ある程度のコスト増であれば、取引先企業を変えるよりも、受け入れた方が安上がりであることの方が多いのです。自社の状況を真摯に説明して依頼をすれば、最低でも検討はしてもらえますし、受け入れてくれる可能性もかなり高いです。
もちろん経営代行を引き受ける際は、その企業が提供しているものが本当に値上げする価値があるものか、値上げが上手く行かなかった場合の影響等を考えます。そして、値上げを受けてもらう代わりにこちらが譲歩すること、逆に受けてもらえなかった場合に相手に譲歩してもらうべきこと、絶対に譲れないこと等々を事前に十分調査し、経営者と共に考えて納得してもらった上で、マイナスの影響が起こらないよう細心の注意を払って元請けや仕入れ先にアプローチを行います。
中小企業の経営者は義理人情に厚く優しいので、価格交渉が苦手(というか嫌い)な人が多いようです。
そのような経営者が、長年の取引先にはコスト負担を依頼できないから、新商品の開発や新市場への進出でそのコストを回収しようとしても無理な話です。既存の取引先が受け入れてくれないものを新しい顧客が受け入れることなどあり得ません。それに、新商品を開発する力や新規企業の開拓ができる人材は殆どいないはずです。
現在は大手企業を定年退職した人を顧問として採用し、新規企業へのアプローチを図りたい企業が顧問紹介会社に数多く登録しています。定年退職しても働きたい人材は増える一方ですし、こうした中小企業からの依頼が年々増加しているため、顧問紹介会社は笑いが止まりません。
前職の人材サービス会社でも同様のサービスを行っていますが、こうして顧問を採用しても、中小企業の取引が増えることは殆どありません。「人脈」だけで仕事が貰える時代ではないからです。
ですから、売上を増やしたいからと言って、外部から人脈を持っていそうな顧問と契約したり、むやみに新規顧客の開拓をしようとしないで下さい。それはお金の無駄ですし、場合によっては無謀な要求を相手にすることで既存の事業に大きなマイナス影響を与えてしまう可能性もあります。
企業がまずやるべきことは、既存の顧客をどのように引き留めるか、何度も来てもらえる、使ってもらえるようにするためには何をすれば良いか、更に企業が提供する価値に対して現在の価格が妥当であるかどうかの見直しです。
KPIや目標を設定する際は、こうしたことをよく考えて行って下さい。
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