今さら聞けない財務と数字の話㉘~限界利益図表を書いてみる

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限界利益図表を書いてみる

費用を変動費と固定費に分解することができれば、営業利益を得るために必要な売上の金額が計算できます。

売上と費用の関係が図表1です。縦軸が売上高と費用、横軸が売上高になります。損益分岐点から右側が利益、左側が損失となります。

 

図表1:損益分岐点売上高と損益の範囲

 

図表1は、前回(今さら聞けない財務と数字の話㉗~損益分岐点 )の計算を基にしています。この企業の固定費は350百万円ですが、売上が875百万円の時に利益がゼロとなる損益分岐点であることがわかります。損益分岐点売上よりも右となる、売上1,000百万円では、50百万円の営業利益が出ることを示しています。

また、875百万円の売上よりも左側、つまり売上が875百万円よりも少なければ、営業利益はマイナスになることがわかると思います。この図を限界利益図といいます。限界利益とは固定費に営業利益を加えたもの、或いは売上から変動費を引いた金額のことです。

限界利益という言い方には違和感があるかもしれません。限界と言ってもLimitの意味ではありません。

英語では、限界利益のことを、Marginal Profitと言います。Marginalとは余白というような意味ですが、ここでは売上と変動費(売上の増減に伴って変動する費用)との差というような意味で使います。つまり、固定費を全く考えないで、単純に売上を上げるためにいくら仕入や製造コストをかけたのか、その結果として、差額(利益)がいくらになったかを示すものが限界利益(Marginal Profit)です。

因みに変動費とは、売上に伴って増減するコストのことです。メーカーの原材料費、工賃や外注費、卸売や小売店が仕入れも変動費です。固定費とは、例えばお店の家賃や人件費のように、モノやサービスが売れなくても払わなければならないコストです。

限界利益とは、固定費をカバーするだけの利益です。つまり、固定費が全くかからないビジネスであれば、限界利益が営業利益になります。

「利益が赤字になっても取引を行うかどうか」という選択に迫られた場合、限界利益が黒字であれば、最低、固定費は回収できるから取引を行うという判断も可能になります。反対に限界利益が赤字であれば、固定費すら賄えない、やればやるだけ損する事業ということになります。

ビジネスに於いて固定費を回収できるかどうかは非常に大事です。(☞ 営業利益が赤字になる大口受注は全て断るべきなのかを参照)

ここでは、限界利益がプラスであれば、最低限固定費は賄えていること、事業が成り立つためには、最低でもこの限界利益がプラスでなければならないことを理解しておいて下さい。

尚、この限界利益の概念を知るためには、限界利益図表が非常に役に立ちます。作り方は簡単なので、ここで説明します。

まず、縦軸が売上と総費用、横軸が売上高になるグラフを作ります。次に、原点の0から正方形の図表の右上の角、対角線上に線を引きます。これが売上高線となります。固定費との関係でこの線を限界利益線とも言います。原点から45度の線です。 縦軸の目盛りで固定費の額を決め、そこから水平に線を引きます。この線から下が固定費です。(図表2)

 

 図表2:限界利益図表の作成

 

図表2の場合、売上高線が固定費350を越えると限界利益はプラスになります。固定費の線より下になると限界利益はマイナスとなり、固定費が回収できていないことになります。(図表3) 

  

図表3:売上線と固定費線

 

更にこの図表3に変動費を加えます。

損益分岐点売上高を計算して、その数字を縦軸と横軸にとります。今回は875百万円なので、ゼロを起点に図表4のような正方形ができあがります。縦軸と横軸の875百万円が交わる点が損益分岐点です。

縦軸の875百万円は損益分岐点ですから、875百万円から固定費350百万円までの間が変動費となります。次に、縦軸が固定費350百万円と交わる地点から損益分岐点に向かって線を引きます。この線のことを総費用線と言います。固定費がまず計上され、その上に変動費が加わったこの総費用線が全ての費用を表す線になり、この総費用線と原点から対角線上に引いた売上高線(限界利益線)の間が営業利益や営業損失の範囲となります。(図表4)  

 

図表4:損益分岐点をマークする

 

図表5の通り、損益分岐点よりも右側へ行くに従って売上高線と総費用線の間が長くなります。これは、利益が大きくなるということです。その反対に、損益分岐点から左側へ、売上が減少するに従って赤字の幅が大きくなります。

もし、固定費が増えれば350百万円の線が上がります。すると、総費用線の傾きの角度は小さくなります。逆に固定費が減れば線が下がり、総費用線の傾きは大きくなります。

固定費と変動費は事業構造によって割合が異なりますが、限界利益図で、総費用線の傾きを見ることによって、企業が固定費型企業か変動費型企業なのかが理解できます。

          

図表5:損益分岐点と損益の範囲

 

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⇨ 今さら聞けない財務と数字の話㉙~固定費型と変動費型企業の違い

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