今さら聞けない財務と数字の話㉕~CCCとは

CCCとは
必要運転資金の考え方を知っていると事業運営の際にとても役に立ちます。
必要となる運転資金は、月商×{(在庫の回転期間+売掛金の回転期間)-買掛金の回転期間}で導くことができます。
回転期間というと、例えば「在庫が1回転するのに要する期間」とか言われるのですが、1回転と言われてもよくわからないので、「在庫残高が月商の何か月分あるか」という風に考えて下さい。
在庫や売掛金は入ってくるお金、買掛金は出て行くお金です。出と入のギャップが大きいほど資金(運転資金)が必要となります。この考え方はCCC(Cash Conversion Cycle・・・キャッシュコンバージョンサイクル)という言い方もされます。「現金に転換されるまでの期間」という意味でしょうか。
そこで、Z社のケースをもう一度見てみましょう。
図表1は2016年と2019年の売上と運転資金の推移です。一番右の2019年3月の数字は、売上が666百万円ではなく、2016年と同様、888百万円だった場合の運転資金金額を算出するために加えてあります。
2016年と比較して、2019年は、月商対比必要運転資金が1.24か月(4.63-3.39)増加しましたが、売上が▲222百万円の減少となったため、実際には必要となる運転資金は増加しませんでした。
図表1:Z社の売上増減と運転資金

図表2は、増加運転資金の計算方法です。
在庫の回転期間等は図表1と同じです。この計算では、Z社のCCC(運転資金)が4.63か月となっています。つまり、商品を販売してそれが現金に転換されるまでに4.63か月かかるということです。
もしZ社の2019年の売上が、666百万円ではなく2016年と同じ888百万円だったとすると、月商(1ヵ月に換算した売上)は55.5百万円から74百万円に18.5百万円増加したはずです。そして、この月商に対し、運転資金期間の4.63か月を乗じた85.7百万円が、売上の増加により新たに必要となる運転資金の金額となるはずでした。
図表2:増加運転資金の計算方法

これを見てもわかる通り、CCC(現金に転換されるまでの期間)が長いと、売上を増加させるほど、必要な運転資金の金額が増えてしまうことになります。このため、企業はできるだけ在庫の保有期間と売掛金の期間を短く、買掛金の期間を長くしようとします。
2019年6月19日の日本経済新聞では、三一重工(中国)、コマツ(日本)、キャタピラー(米国)の世界三大建機メーカーのCCCを比較しています。
2019年度のCCCは、三一重工が165日と3年前から253日短縮、コマツは206日と17日短縮、キャタピラーは150日と33日の短縮となったようです。キャタピラーや三一重工と比較して、まだまだ日本のコマツのCCCは長くなっています。
ちょっと古いですが、2012年1月17日の日本経済新聞によれば、2010年度のソニーやパナソニックのCCCが約40日であったのに対し、アップルはなんとマイナス20日でした。ソニーやパナソニックと比較して約2ヵ月も運転資金が少なくて済むわけです。
三一重工とコマツ、AppleとソニーのCCCの差は、売上から考えると、とてつもない運転資金額になります。Appleは仕入れ先に対して非常に強い立場にあるため、取引条件も非常に良いということでしょう。
三一重工も業界でのプレゼンスが高まるにつれ、取引条件が同社にとって有利になっているようです。また在庫管理もかなりシビアに行われると思われます。
日本企業は数多くの系列会社や下請けを抱えているため、なかなかCCCを短くすることができないのかもしれませんが、この差の広がりは利益の差となり、企業の収益力の差となります。
経営再建をする場合に最初に手を入れるのは、このCCCです。CCCの見直しをするだけで資金繰りの改善と経費の削減が達成できてしまうこともあります。
事業責任者として新しい企業との取引を始める際は、こうした視点からもB/Sをチェックすることが必要です。
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初心者向けの財務会計の本を理解しても、それを実際に経営の場で使える様にはなりません。理由は、初心者向けの財務の本は、ほとんどがB/SとP/Lの見方や財務分析まで。キャッシュフローについてもごくわずか、ましてや、管理会計の話には全く触れられていないからです。
「財務って勉強しても良くわからない」「P/Lは大事だけど、B/Sなんて借入の金額ぐらいしか見ていない」という人から、「一応、財務分析もできる」という、財務がわかったつもりの過去の私の様な人にまで、経理の視点からではない、経営の視点から見た数字と財務の話を書いています。駆け出しの営業員から事業責任者や経営者、或いは銀行員まで、実際にビジネスで使える財務数字を学んで頂ければと思います。
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