今さら聞けない財務と数字の話㉔~取引先の財務状況を見極める②

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取引先の財務状況を見極める②

中小企業の場合は、C/Sを作成していない企業がほとんどですが、商売ではキャッシュの有無が最も大事です。

P/L上でどれだけ利益が出ていても、実際に現金が手元に残っていなければ黒字であっても倒産します。 (☞ 今さら聞けない財務と数字の話㉒~キャッシュフロー計算書

Z社の2016年と2019年のP/Lを比較すると、確かに2019年3月期には営業利益は黒字に転換しています。しかし、売上は大きく減少し、売上総利益は3百万円しか改善していません。一般販売管理費(販管費)の削減でなんとか営業利益を出しているように思えます。

 

図表1:Z社のP/L

そこで、Z社の資金繰りの状況を確認してみたいと思います。この企業もC/Sは作っていないので、B/Sから資金繰りの状況を推測してみます。

図表2の通り、Z社の純資産は3年前と比較して改善はしているものの、未だ24百万円の債務超過の状態です。 (債務超過については「今さら聞けない財務と数字の話⑧~B/Sの中味」をご覧下さい。 )

もちろん債務超過であっても、資金繰りが回っていれば倒産はしません。そこで、資金繰りの状況を見るためB/Sの枠で囲んだ部分、売掛金と在庫(製品、仕掛金、原材料)と買掛金の金額に注目します。

 

図表2:Z社のB/Sで注目すべき科目

 

「売掛金」は、ツケで販売し、まだ支払いがされていないお金です。「在庫」は販売するために保有している製品で、それに対して「仕掛品(シカカリヒン)」とは「原材料」から製品になる過程のモノです。これから完成製品にするためには、加工等が必要となります。

図表2の「原材料」、「仕掛品」、「製品」は話を簡単にするために、全て「在庫」として捉えます。これらと売上(月商)との関係を見ると、Z社の資金繰りがわかります。

「月商」は毎月売上の平均ですので、年間売上を12等分します。2016年は売上888百万円に対し月商は74百万円、同様に2019年の月商は55.6百万円(≒56百万円)となります。在庫が月商に対し、何か月間分滞留しているかを示したものが図表3の②になります。2016年には月商に対し3.1か月分の在庫がありましたが、それが2019年には3.9か月に増えています。

次に売掛金です。在庫と同様、売掛金の金額を月商で割ると、何か月分の売掛期間を顧客に許容しているかがわかります。計算した結果は③の通り、2016年が1.3か月、2019年は1.6か月でした。こちらも若干期間が伸びています。つまり顧客からの資金回収が遅くなっている、取引条件が若干悪くなっているということです。

そしてB/Sの右側の買掛金です。月商対比を計算したものが④になります。こちらは2013年の1.0か月と比較して2016年は0.8か月と短くなっています。買掛金の期間が短くなるということは、取引先への支払期間が短縮しているということですから、こちらも取引条件の悪化を示すものです。

「月商比在庫+月商比売掛金-月商比買掛金」を計算することで、資金の回収と支払いのギャップがわかります。ギャップが大きいと、その分、資金の立て替え(運転資金)が必要となります。図表3ではこの計算をしました。この結果、2016年の必要運転資金3.4か月に対し、2019年は4.6か月と1.3か月も伸びています。

 

図表3:Z社の必要運転資金

この3.4か月、4.6か月という期間は、月商に対して必要となる運転資金の期間です。では具体的にいくら必要なのかを計算してみましょう。計算方法は単純です。「月商×必要運転資金期間」が必要運転資金の金額となります。

これを計算すると下記の通りになります。

2016年は 74百万円×3.4か月=252百万円、
2019年は 56百万円×4.6か月=255百万円(55.5百万円で計算)

計算の結果、2019年は2016年対比、必要運転資金が3百万円増加していることがわかります。でもあまり変わっていませんね。その理由は、2019年の売上が2016年に対し大きく落ち込んでいるからです。

計算式を見ればわかりますが、月商が小さくなれば、必要運転資金期間が長くなっても、必要な額はそれほど増加しません。

では、2019年の月商(売上)が、2016年と同じ金額であったと仮定して、Z社の必要運転資金を計算してみましょう。下記の通りとなります。

2016年は 74百万円×3.4か月=252百万円、
2019年は 74百万円×4.6か月=340百万円

もし売上が2016年と同額だった場合、2019年には88百万円(340百万円-252百万円)も運転資金が増えてしまうところでした。実際には2019年は売上が落ちたために運転資金需要も減り、幸か不幸か、この金額を借入する必要なかったということです。しかし、この売上の状況と取引条件の悪化を見る限り、Z社の業績はかなり苦しいことがわかります。

Z社は買掛期間が短くなり、売掛期間が長くなっています。つまり取引条件が悪化しています。また、売上に対する在庫も増えており、4ヵ月近い在庫を抱えています。これだけの在庫となると、場合によっては売れない在庫をため込んでいるか、粉飾をしている可能性もあります。

「在庫が増えると利益が増える」で確認した通り、在庫が増えると売上原価は下がり、売上総利益が増えます。  今さら聞けない財務と数字の話㉑~在庫が増えると利益が増える

ですから、新社長が「利益は改善している」と言っても、「売上が減少して売れない在庫が増加し、人件費等の販管費をカットして何とか利益を作っている」という状況であることが推測できます。

売れない在庫の増加による利益の増加は粉飾と紙一重です。こうして利益を増やしても在庫が減るわけではなく、翌期に利益を増やそうと思えば、また在庫を積み増すか、更に粉飾を重ねるしかなくなります。

更に利益を出すと、その利益に対する税金を納めなければならないので、資金繰りはますます厳しくなります。 

売掛期、在庫、買掛金、月商から導き出される必要運転資金の期間を見ることで、その会社の資金繰りの状況を確認することができます。中小企業にとって、事業構造が変わらないのに、必要運転資金の期間が伸びている場合は、取引条件が悪化している危険な兆候です。

本件のように、現状の資金繰りの状況を把握するだけでなく、例えば新規事業を行う場合や、起業するような場合、P/LだけでなくB/Sまで作ると、資金繰りの予測がつきます。資金調達を行う際は、設備投資だけでなく、運転資金のことを考えなければ、いくら利益が出ていたとしても、キャッシュがなくなり途中で事業が行き詰まってしまう可能性があります。

必要運転資金の計算方法はそれほど難しくないので、是非メモしておいて、必要な時に確認してみて下さい。

参考までに

今回在庫については月商対比で計算しました。しかし、実際には在庫は売れたわけではないですから、売上に対する1か月分ではなく、売上原価に対する1か月分という考え方が正しいとされています。ただ色々出てくると面倒なので、ここでは全て月商で計算しています。皆さんが分析する際も、月商で構わないと思います。実際に大手銀行でも取引先の財務分析をする際は月商で計算しています。

因みに売上原価ベースで計算すると、月商費在庫は2016年が3.52か月、2019年が4.52か月と売上ベースの月商対比(+0.8か月)よりも滞留月数が増えている(+1.0か月)ことがわかります。

 

⇨ 今さら聞けない財務と数字の話㉕~CCCとは

⇦ 今さら聞けない財務と数字の話㉓~取引先の財務状況を見極める①

 

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