今さら聞けない財務と数字の話㉑~在庫を増やすと利益が増える?

売上原価の仕組み
在庫を増やすと利益が増えます。ここでは、売上原価算出の仕組みから、その理由を説明します。
売上原価とは、販売した商品の製造コストや、販売するために仕入れた費用で、基本的には商品が売れた際に発生するものです。工場で製造する製品の原料費や、販売するために輸入した商品の仕入れ費用が売上原価となります。
例として、全国に店舗を持つお菓子会社(決算期は3月31日) が、材料を仕入れてクッキーを各店舗で売る場合のお金の動きから考えてみます。(図表1)
図表1:商品販売の際のコストの計上方法

図表1の期首在庫200百万円は、会計年度上、全店舗の前期末(令和2年3月31日)の時点で売れ残った在庫商品です。これは今期(令和2年4月1日~令和3年3月31日)販売される商品となるため、期首の在庫として計上します。
期首在庫の下にある当期仕入800百万円は、今期新たに仕入れた商品のことです。前期の売れ残りである「期首在庫200百万円」と「当期仕入800百万円」を合計した1,000百万円が、今期、全国の店舗で販売される商品となります。
そして1年を通じ、この1,000百万円の内、900百万円の商品が売れ、決算期末(令和3年3月31日)に100百万円の商品が売れ残ったとすると、今期の決算ではこの商品を「期末在庫100百万円」として計上します。前述同様、令和3年3月31日に期末在庫100百万円として計上された商品は、翌期の帳簿では、「期首在庫100百万円」として計上されます。
商品の流れをお分かりいただけたところで、売上原価がどのように決まるのかを考えてみましょう。
図表1では、期首在庫200百万円に当期仕入800百万円を加えた1,000百万円で販売活動を行い、結果的に900百万円が売れました。その結果、売れ残った商品100百万円を期末在庫として計上しました。
売上原価とは、当期に販売した商品の仕入れにかかったコストや製造にかかった費用です。つまり、当期に販売活動を行った商品(期首在庫200百万円+当期仕入800百万円)から、販売できずに期末に残った商品の残高100百万円を引いたもの、これが売上原価になります。
売上原価の求め方は下記の通りになります。
期首在庫(200)+当期仕入(800)-期末在庫(100)=売上原価(900)
図表2:売上原価の求め方

そこで、このお菓子会社の売上原価と売上総利益を算出してみましょう。お菓子会社の期首在庫は200百万円、当期仕入は800百万円、そして期末在庫が100百万円でした。売上原価を計算すると、期首在庫 200百万円 + 当期仕入 800 百万円- 期末在庫 100百万円= 900百万円 となります。
図表3にある通り、当期売上は2,000百万円ですので、当期の売上総利益は、当期売上2,000百万円-売上原価900百万円=1,100百万円と計算することができます。
図表3:売上原価をP/Lに当てはめると

在庫が増えると利益が増える
さてこの計算から、「在庫が増えると利益が増える」理由を考えます。
図表3で、期末の在庫が100百万円から200百万円に増えると利益はどうなるでしょうか。今期販売できる商品は1,000百万円(期首在庫200百万円+当期仕入800百万円)と変わらないものの、期末に在庫が200百万円残ると、売上原価は800百万円となります。
先ほどの計算式に当てはめると、下記のようになります。(図表4)
(期首在庫200百万円+当期仕入800百万円)-期末在庫200百万円=売上原価800百万円
図表4:期末在庫が100百万円増えた

期末在庫を100百万円から200百万円に増加させると、売上原価は100百万円減って800百万円になります。売上自体は2,000百万円と変わらないため、売上2,000百万円-売上原価800百万円=売上総利益1,200百万円となり、売上原価が100百万円減った分だけ売上総利益が増えることになります。(図表5)
図表5:期末在庫を増やすと売上総利益が増える

粉飾じゃなくても
このように、帳簿上、期末に在庫が増えたことにすれば、会計のルールでは、売上原価が減り、売上総利益が増えることになります。またこれとは逆に、会計のルールを悪用して在庫を帳簿上減らせば、利益を減らすこともできます。銀行等に提出する決算書の見栄えを良くするためには在庫を増やし、税金を払いたくない場合は在庫を減らせば利益は操作できてしまいます。
決算書の利益を増やすために架空の在庫を増やす手法は、非常に初歩的な粉飾決算の方法として使われます。決算書で、売上がそれほど増えていないのに期末在庫が過剰になっている、或いは過去と比較して在庫の回転期間(月商に対する在庫金額)が、急に長くなっている(つまり在庫が多くなっている)ような場合は、中身をよく確認する必要があります。銀行やリース会社にお勤めで企業の信用状況をチェックする必要がある方は、単に決算書で数字をチェックするだけではなく、実際に工場や倉庫を見て、在庫がどの程度あるかを確認することも重要です。
と、ここまでは会計の仕組みを悪用した粉飾決算の説明でした。しかし、粉飾しなくても、在庫を増やせば利益を増やすことは可能となります。「期末に利益を確保したいから、在庫を積み増せ!」と経営者に言われて、「それって粉飾しろってこと?」と思った方のために方法を説明していますので、興味がある方は、下記「在庫を増やすとなぜ利益が増えるのか」を是非クリックしてご覧下さい。
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