今さら聞けない財務と数字の話⑲~のれん

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のれん

「のれん」です。のれんって勘定科目なんですね。昔は営業権と言ったのですが、なんか変な感じですね「のれん」って。

「のれん」とは、M&Aで会社を買収した際の価格とその買収した企業の純資産との差額です。「のれん」とか「のれん代」とか言われたら、M&Aを思い出して下さい。

のれんの説明をする前にちょっと復習です。

投資家から集めたお金は右側の「純資産」、外部から集めた返済義務があるお金は「負債」として右側に計上されました。

そして「純資産」と「負債」で調達したお金を運用した結果が左側の「資産」です。B/Sは左側と右側が必ず同じ数字になります。

そこでA社に投資した人(株主)にとっての会社の価値を考えてみます。

例えばA社を解散することになった場合、A社が持っている資産を売却して現金を作り、集めたお金を返さなければなりません。

負債は返済義務があるお金ですから、まずはこの負債を返済します。取引先への支払いや銀行への借入の返済、従業員への未払の給与や退職金等が負債です。

資産を全て換金し、負債を返済し終わると、B/Sの左側には現金、右側には純資産だけが残ります。つまり、返済義務のあるお金を返して最後に残った「純資産」が会社の価値であり、その価値と同等の現金が残るわけです。

最後は、残った現金をそれぞれ株主に返済して会社は解散します。

そこで、図表を見て下さい。B社が純資産80百万円のA社を300百万円で買収することになりました。この時に支払った300百万円とA社の純資産80百万円との差額220百万円をA社の「のれん」と言います。

会社の価値(帳簿上の純資産)は80百万円です。それなのに、なぜB社は80百万円ではなく、300百万円を支払ったのでしょうか。

 

図表:「のれん」の発生

まず純資産の80百万円は、あくまで現時点でのA社の純資産であり、今後A社が事業を続ければ増えていく可能性があります。例えば毎年20百万円ずつ当期純利益が増える予測だとすると、3年間で60百万円、5年間だと100百万円の純資産が増えることになります。

賃貸経営をしている人はわかるかもしれませんが、アパートや収益物件の価格も「今後これだけ儲かる可能性があるから、今の時点ではこの物件はこの金額」という収益還元法という計算方法で価格を出して取引が行われます。

会社の売買もこれに似ています。新しいアパートや収益物件の場合は10年程度の家賃収入で考えることが多いようですが、会社の場合は3~5年に稼ぐであろう収益で考えます。アパートと違うところは「会社は生き物」である点です。アパートは年数が経てば劣化しますが、会社は、経営が上手く行くとブランド力や信用力がついて価値が上がります。従業員にも経験が蓄積され技術力が上がりますし取引先も増えていきます。

一方で、アパートの収益は余程大きな経済環境の変化がなければ安定して収益が得られますが、会社はそうは行きません。今は良くても、競争先が出てくれば、1年で市場が奪われてしまって赤字に転落するかもしれません。経済環境だけでなく、地域や業種、市場や競合先との関係、人材の採用、法的な問題等々、利益を予測するには、さまざまな不確定要因があります。

このため、アパートの収益が10年程度を基準に考えるのに対し、会社は3年程度、長くても5年程度の収益しか勘案されません。実際に、中小企業であれば、資本勘定に3年程度の利益をプラスして買収価格が決められることが多いです。

但し、将来の予測収益以外に、その会社が持っている技術やブランド力が評価されて、帳簿上の価値よりもはるかに高い価格で取引されることも多くあります。そのような企業を買収して自社内に取り込めれば、より早く企業が成長すると考えれば、買い手企業は、売り手企業の帳簿価格以上で買収価格を提示します。(この期待価値を「シナジー効果」と言ったりします。)

B社の経営者は、A社の技術や取引先を活用することで、自社の事業が更に拡大できると考えたため、A社の純資産80百万円+5年分の利益予想100百万円に、シナジー効果の120百万円を加えた300百万円(80+100+120)でA社を買収したわけです。

ちょっと話がのれんからずれてしまいました。

こうしてB社が購入した300百万円のA社の株式ですが、A社の帳簿上の価値は80百万円でしかありません。

技術やブランド力等のシナジー効果をB社の決算書に計上することはできないので、A社の純資産80百万円と実際に買収した金額300百万円との差額である220百万円は、形のない資産である「のれん」としてB社の固定資産に計上します。

「のれん」は固定資産に計上されるので、日本の会計基準では2~20年以内で減価償却をしなければなりません。

B社の「のれん」は220百万円ですから、20年間で減価償却を行う場合、毎年11百万円を減価償却費として費用計上する、つまりその分、利益が少なくなることになります。買収する時には、発生する減価償却費以上に利益を生み出すことができるのかどうかを良く考えることが必要です。

因みに「国際財務報告基準」として世界各地で用いられているIFRSでは、のれん償却は発生しません。「のれん」は建物のように劣化するものではなく、基本的には買収企業とのシナジーが生まれれば企業価値が上がるはずなので、費用計上するのはおかしいという理屈のようです。

その代わり、「のれん」が買収したB社の利益に貢献していることを毎年チェックしなければなりません。その結果貢献していないとなると、価値を一気に損失として減額する会計処理を行います。

「のれん」は何となく難しそうに聞こえるかもしれませんが、「M&Aの時に買収した金額と買収した企業の決算書上の純資産との差額」とだけ覚えておけば簡単です。

上場企業の買収案件がニュースになった期の決算書を見て、のれんがいくらかに注目してみると面白いと思います。

 

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