今さら聞けない財務と数字の話⑱~引当金って何ですか

引当金とは
減価償却と同じぐらいわかりにくいのが引当金です。引当金の説明をする前に、もう一度減価償却の復習をしておきましょう。
減価償却とは、時間の経過や使用で価値が減少していく固定資産を取得した場合、その取得費用を、耐用年数に応じて費用計上していく会計処理のことでした。
例えば、営業車を2,400千円で購入した場合、この2,400千円を、車両の耐用年数である6年間に渡って均等(或いは率に応じて)に費用として計上することが減価償却(価値を減少させて返していく)の決まりです。
6年間均等に費用として減価償却するわけですから、2,400千円÷6年間=400千円となり、毎年、400千円が減価償却の費用になります。(図表1)
図表1:減価償却のイメージ

図表2は減価償却を行った場合のB/Sの動きです。2019年に固定資産として計上された自動車(車両運搬具)の資産価値は2,400千円ですが、翌年の末には400千円が減価償却として費用に計上されるため、資産の価値も同じ額だけ減り、2,000千円となります。
400千円が費用になれば、営業利益も当期利益も減ります。当期純利益が減れば、B/Sの純資産(利益剰余金)も400千円減るということになります。(話を簡略化するため、税金等は一切考慮にいれていません)
2020年以降は、毎年400千円を費用計上するので、資産としての車両運搬具は400千円ずつ減り続け、最終的には価値がゼロ(実際、帳簿上には1円で計上)となります。
図表2:B/S上では減価償却された資産はどのように動くか

貸倒引当金とは
少し長くなりましたが、以上が減価償却の復習です。では、引当金とはどういうものでしょうか。
引当金とは、将来発生する特定の費用や損失に備えるため、あらかじめ当期の費用として繰り入れて準備しておく見積もり金額のことです。 引当金にはさまざまな種類がありますが、比較的よく目にする「貸倒引当金」と「退職給付引当金」を例に説明したいと思います。
貸倒引当金の「貸倒(カシダオレ)」とは、取引先が倒産したことによって、売掛金や貸付金が回収できなくなってしまったことを意味します。そして、「引当(ヒキアテ)」とは、将来の支出のために準備しておくという意味です。
つまり、貸倒引当金とは、将来に発生するかもしれない取引先債権の貸し倒れに備え、前もって用意しておく積立金のようなイメージです。
図表3を見て下さい。青い折れ線グラフは、ある企業の売上額、オレンジの棒グラフは、その企業が積み立てている貸倒引当金の金額を表しています。
貸倒引当金は売上に対し、一定の割合で積み立てをしてきます。図表3のケースであれば、20,000千円前後の売上(左の目盛り)に対し、毎年200千円弱の引当金が積み立てられています(右の目盛り)。
例えばこの企業が2020年に1,000千円の売掛金を回収できなくなったとします。貸倒引当金を積んでいなければ、この企業は、同年に1,000千円の貸倒損失を計上しなければなりません。しかしこの企業は、2014年から毎年200千円弱の貸倒引当という積立をしてきました。2020年の時点では、その金額は1,000千円以上になっています。
この場合、回収不能となった売掛金1,000千円を貸倒引当金でカバーすることができるため、2020年の決算期に1,000千円を損失として全額費用計上する必要はなくなります。
減価償却は購入したも資産を1期で費用計上しないよう、法定期間に応じて費用を分割して計上しました。引当金は、今後発生する可能性がある費用を事前に積み立て、実際に発生した場合、P/Lへの影響を少なくしているイメージです。
そもそも取引先によって、売掛金のような債権が回収できるリスクは違ってきます。例えばトヨタ自動車に対する売掛金であればまず100%回収できるでしょうが、まだ創業したばかりの赤字のベンチャー企業に対する売掛金は、トヨタ自動車向けの売掛金よりも回収できるリスクは高くなります。企業が商品を販売する先は、貸し倒れのリスクが低い超一流会社だけではありませんから、企業の全ての売上(売掛金)に対しては、一定額の貸倒引当金を計上することが認められています。
事業を行っている限り、貸し倒れのリスクはあります。それがたまたまある年度に起こったとしても、その金額を平均して分散させる仕組みが「貸倒引当金」というわけです。
図表3:貸倒引当金とは

退職給付引当金とは何か
次に退職給付引当金についてです。 今さら聞けない財務と数字の話⑨~B/Sの構成でも触れましたが、固定負債の中に 退職金の支払い義務に応じて積み立てる退職給付引当金というモノがありました。就業規則に基づく退職金制度がある会社では、従業員に対する将来の退職金支給に備えて、企業会計上、退職給付引当金の計上が必要となります。
図表4の通り、退職金は従業員の社歴が長くなるほど金額が増えていきます。退職金制度がある会社では、従業員が辞めることになれば退職金を必ず支払う義務があります。つまり企業は従業員に対し、退職金を給付する債務を負っているわけです。
貸倒引当金と同じで、退職債務に対し引き当てを積んでいなければ、退職者が出るたびに損失を計上しなければなりません。そうした事態に備えたものが退職給付引当金です。
図表4:退職給付引当金のイメージ

ところで、B/Sへの計上方法ですが、退職給付引当金は債務になるため、B/Sの右側の固定負債に計上されます。これに対し、貸倒引当金はどうでしょうか。
貸倒引当金は、債務というより、将来発生する可能性がある費用に対する準備のようなものです。つまり、単なる負債ではなく、売掛金という資産勘定の価値を下げる可能性があるものに対する準備金のようなものなので、B/Sでは左側の流動資産にマイナスで計上されます。
流動資産の欄にいきなりマイナス表記が出てくるので、「なんだこれ?」と思いますが、売掛金が回収できなくなった時に備えた準備金として、最初から一定額を売掛金から引いておくようなイメージのモノです。

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