ESとCS、権限と責任

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ES⇨CS⇨業績

ジェームス・L・ヘスケットが提唱した「サービス・プロフィット・チェーン」は、従業員満足(ES・・・Employee Satisfaction) の向上がサービスの品質を向上させ、顧客満足(CS・・・Customer Satisfaction)を高める重要な要素になるとしています。従業員の満足が、顧客に対するサービス価値を創造する原動力になるという考え方です。

 

図表:サービス・プロフィット・チェーン(満足のピラミッド)

(出典)ジェームス・L・ヘスケット 『カスタマー・ロイヤルティの経営』(日本経済新聞社) を参考に作成

 

2013年2月、日本マクドナルドホールディングス株式会社社長に就任したサラ・カサノバ氏が最初に行った経営改革は、まず従業員の給与を上げることでした。カサノバ社長は、あるテレビ番組のインタビューで、「マクドナルドのビジネスは人によって支えられています。つまり我々が成功する為には従業員が満足しなければなりません。だからこれは当たり前のことなのです。」と答えています。

新宿歌舞伎町で店長経験もある同社の人事部長は、「ピーク時に200名のクルー(アルバイト)を管理する為には、クルーの力も借りながら、絶えず全体にフォローが行き届く様に管理・調整することが必要です。クルー全体に元気がないと感じた時や、一人ぽつんとしている子がいることに気付いた時にすぐに行動を起こします。その積み重ねが従業員の成長につながり、良いサービスを提供できる店舗力になるのです。」と言います。

マクドナルドの業績が復活している理由は、「ES向上 ⇨ CS向上 ⇨ 業績向上」のサイクルが上手く回りつつある一例かもしれません。

カナダの心理学者であるサム・グラックスバーグは、ろうそく問題と言われる実験(1962年)によって、「金銭的インセンティブは、単純作業に対しては効果的に働く」という結論を導き出しました。この実験では、簡単な作業であれば、目の前にニンジンをぶら下げることによって生産性を上げることができることが証明されました。(グラックスバーグの実験に関してはこちら

マクドナルドが、業績低迷打破のために従業員の報酬を上げた理由と同じです。一方、グラックスバーグは、この実験で「クリエイティブな作業では、金銭的なインセンティブはその結果に悪影響を与える」という結論も得ています。「考える」ことが必要な仕事に関しては、賃金やボーナスを餌に仕事をさせようとしても結果にはつながらず、むしろやる気がなくなる等の悪影響を与えるというのです。グラックスバーグは、「クリエイティブな仕事をする人には、純粋に問題を解く楽しみの様な環境を与える方が効果的」と結論づけています。

現場には報酬を、考える人には楽しみを

マクドナルドのカサノバ社長が行った報酬の引き上げと、人事部長のスタッフの管理方法を、グラックスバーグの実験結果と照らし合わしてみましょう。

同社の人事部長は、マクドナルドの強みについて、「店長からクルーまでが持つ、周囲へのフォローアップを常に心掛ける姿勢、つまりは店舗内のチームワーク。毎日の挨拶であったり、相手への配慮、他人への関心。そういった日ごろのコミュニケーションから醸成される人材育成の土台こそが、マクドナルドの強み」とインタビューに答えています。

マクドナルドの店舗で働く従業員は作られたマニュアルに沿って行動します。そうした単純作業を行う従業員の満足度を上げるためには、金銭的なインセンティブを上げることが効果的です。一方で、「考える」仕事を行う従業員にとって、金銭的なインセンティブは弊害となります。

創業者の藤田田氏は、株式の約半分を米国のマクドナルドに握られていたにもかかわらず、米本社の介入を嫌い、経営のいたる所で日本流を貫いていました。しかし「100円マック」の展開で、マクドナルドブランドの毀損という失敗を犯します。その後、マクドナルド本社が招聘した原田前社長は、米国からの指導を受けつつ、“藤田流”と正反対の“米国流”の手法を持ち込むことに専念しました。

ビジネスの米国本社回帰により、原田時代には、国マクドナルドの方針に従って、人員削減や降格人事が頻繁に行われ、日本独自の商品企画等が姿を消していきます。そしてその結果、クリエイティブな仕事が自由にできなくなった同社では、優秀な人材が次々と去って行きました。

店舗力がいくら上がっても、「考える」経営人材が育たなければ企業は持続的に成長することはできません。日本マクドナルドホールディングスの業績は、カサノバ体制に移行した後、確かに回復しつつあります。しかし、過去10年間の推移を見ると、営業利益はようやく元に戻りつつありものの、売上が大きく伸びているわけではありません。

2020年9月、11月と、米マクドナルドは日本マクドナルドの株式の一部売却を発表しました。親会社は、日本マクドナルドの売上が頭打ちとみて、株価が堅調な今のうちに売却してしまった方が良いという判断をしたのかもしれません。

 

(出典)日本マクドナルドホールディングス(株)IR資料

 

現場力が上がっても、経営人材が育っていなければ、同社の業績が今以上に伸びることはありません。日本マクドナルドのサービスプロフィットチェーンの考え方が、クリエイティブな仕事を行う人材にどこまで浸透するかが今後の業績の鍵を握ります。

良い職場を作るためには、現場の従業員に金銭的インセンティブを与えると共に、職場内でお互いを認め合い、褒める文化を醸成する努力や、コミュニケーションを促すことが重要です。現場の従業員に気持ち良く仕事をしてもらえれば、それがお客様からの信頼につながり、業績にプラスとなって還ってきます。

しかし、それだけでは将来の経営を担う「考える従業員」のESは向上しません。クリエイティブな仕事やイノベーティブな仕事をする従業員のESを向上させるためには、従業員に「権限と責任」を与え、新しいことにチャレンジさせる「仕事の楽しみ」を与えなければなりません。因みにここで言う「考える従業員」とは、本社であっても、現場で働いていても、常に新たな発想やアイディアで問題を解決し、事業を伸ばしていきたい、顧客にもっと喜んでもらいたいと考えている従業員のことです。

カサノバ体制になってから、日本マクドナルドは、日本独自の商品や地域性がある商品を開発するようになりました。米国本社の株式売却で影響力が更に弱まれば、「考える」従業員が、新たなことにチャレンジできる環境が生まれるかもしれません。従業員が自由に考え、それを仕事にできる環境が整えば、同社の経営力が向上し、業績が更に拡大するかもしれません。

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