中小企業に於ける組織図の重要性

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組織図はありますか

企業に伺った際、まず最初に見せていただくのは組織図です。しかし、中小企業には組織図がなかったり、あっても更新されていない企業が少なくありません。

国際大学の伊丹学長によると、組織図は戦略実行の可否を示すもので、顧客や社員、株主や債権者といったステークホルダーへの重要なメッセージとなるものです。そして、組織の階層や構造は、社員の思考様式や価値観に影響を及ぼします。(伊丹敬之・加護野忠男(1989)「ゼミナール経営学入門」(日本経済新聞社)

組織図で仕事(役割と責任)の範囲を明らかにすれば、社員は組織の階層や構造を認識し、そのことが思考パターンに影響を及ぼすようになります。組織図にある仕事や役割を目指す人も出てきます。

図表1は、A社の社員全員に配られている手帳にある組織図です。

A社の社長は脱サラして先代のビジネスを引き継ぎました。これまで下請け企業として数多くの苦労をしてきましたが、自社で開発した新商品がヒットしたため、この新商品で海外への進出を目論んでいます。

この組織図を見て、「ああ、もったいないなあ」と感じました。

 

図表1:A社の組織図

 

組織図には、社長や税務・法律顧問の名前はありますが、各部門の責任者の名前が入っていません。

社長によると、「組織図は金融機関に説明をするために作っているので、これで構わない」とのことです。この会社では、年に1度、金融機関やステイクホルダーを招いた経営方針説明会を開催しており、その際に、自社の概要や今期の計画を一冊の手帳にして配布しています。その手帳は社員全員が持っていますが、中に書いてある組織図は対外的な説明のために作っているというわけです。

各部には部長がいますが、基本的には社長が全ての業務を把握しているため、部長の名前を入れる必要性も感じていないようです。

確かに、組織図は対外的に自社の概要を説明することにも使われます。しかし、それは組織図を作る本来の目的ではありません。組織図には経営に対する考え方や企業の成長度合いが反映されます。

組織図を見ると、この企業では、社長が全てを決める文鎮型組織であることがわかりますが、折角組織図を作ったのであれば、単なるステイクホルダーへの説明ではなく、社員に意識させるツールとして活用すれば良いのにと感じます。

なぜ名前が必要なのか

責任者の名前が入るだけで、名前を書かれた人は部署に対する責任を自覚します。そして周りの社員も、部署の責任者としてその人を見るようになります。組織図は金融機関や外部のステイクホルダーにもシェアされているなら、責任者は、部署の仕事や役割に対する責任を一層感じるでしょう。

海外の新聞では、記事を書いた記者が署名をします。名前を出して記事を書くということは、その記事に自分が責任を持っているということです。責任を感じることで、仕事への取り組み姿勢が変わってきます。

組織図を重視する理由は、責任者に自覚を促すだけではありません。部署の分け方、人の配置方法やレポートラインを見れば、経営者が事業をどのように伸ばしていこうとしているかがわかります。

経営者が組織図に責任者の名前を入れる必要を感じていない理由は、社員には任せられないと思っているのか、社員をリスペクトしていない、或いは、社員の成長を望んでいない(又は育成するつもりもない)のいずれかです。

業容が、一定規模以上になれば、経営者が一人で事業のすべてを見ることはできなくなります。企業を持続的に発展させるためには、社員が成長し、経営者の仕事を代行できる力をつける必要があります。

企業が成長する発展段階

人と同じように、企業の成長にもいくつかの発展段階が存在します。

図表2は1979年にラリー・グレイナー博士が唱えた企業の発展段階の図です。グレイナーは、「成長する企業は革命の段階と呼ばれる5つの発展段階を経る必要がある」と言います。

 

図表2: 組織の進化段階と革命段階

画像2

(出典)「企業成長のフシをどう乗り切るか」ラリー・グレイナー著を加工

 

多くの企業は発展段階の節目に差し掛かると、組織がうまく機能しなくなります。そして状況を長く放置すると、経営に悪影響を及ぼします。

図表2にある革命の段階(波線の部分)は、新しい組織活動を模索する時期を指します。この時期を乗り越えられた企業だけが、次の段階に進めるとグレイナー博士は言います。

しかし、中小企業の多くは、第1段階と第2段階の間(大きな矢印)で成長が止まってしまいます。その理由は、中小企業では、経営者が全てに指示を出す「文鎮型マネジメント」が基本であり、経営者が権限を各責任者に委譲しないからです。

第2段階の「革命の段階」を乗り越えて、第3段階の「権限委譲による成長」に進むためには、経営者は文鎮型マネジメントを辞め、自らの権限と責任を社員に委譲しなければなりません。

それは非常に難しいことですが、その第一歩として、まずは組織図を見直し、各部・課に責任者の名前を書き込んで下さい。組織図に責任者(候補)の名前を書けば、名前を書かれた社員は部署に於ける自分の立場を認識し、やがて責任を自覚します。

また、組織図の作成は、組織のどの部門に人材が足りないか、今後の事業成長のためにどの部署に人材が必要か等を経営者が認識する良い機会にもなります。

「人もいないし、組織も兼務ばかりだから」という企業でも、まずは組織図に責任者の名前を入れてみて下さい。名前が入った組織図の作成は、中小企業が文鎮型マネジメントから脱却し、次のステージに成長する機会となるはずです。 

 

⇨ 中小企業が成長する組織図の作り方

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