中小企業に於ける組織図の重要性

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組織図はありますか

企業に伺った際、まず最初に見せていただくのは組織図です。しかし、中小企業には組織図がなかったり、長年更新されていない組織図しかない企業も少なくありません。

国際大学の伊丹学長は、「組織図は戦略実行の可否を示し、顧客や社員、株主や債権者といったステークホルダーへの重要なメッセージとなる。そして、組織の階層や構造は、社員の思考様式や価値観に影響を及ぼす。」と言います。(伊丹敬之・加護野忠男(1989)「ゼミナール経営学入門」(日本経済新聞社)

組織図で仕事(役割と責任)の範囲を明らかにすれば、社員は組織の階層や構造を認識し、それが個々人の思考や行動に影響を及ぼすようになります。

図表1は、関東地方の製造業A社が、毎年社員全員に配布している手帳に記載されている組織図です。

A社の社長は15年前に脱サラして、先代が作った町工場を引き継ぎました。これまで大手企業の下請けとして数多くの苦労をしてきましたが、自社で開発した新商品がヒットしたことから、この商品で大手企業の下請けから脱却して、アジア市場への進出を目指しています。

さて、この組織図を見て、皆さんはどのように感じるでしょうか。

 

図表1:A社の組織図

 

ひと目見て、「ああもったいないなあ」と私は感じました。

まず、組織図には、社長や税務・法律顧問の名前はありますが、各部門の責任者の名前が入っていません。その点を社長に確認すると、「組織図は金融機関に説明をするために作っているので、これで構わない」との回答でした。

この会社では、年に1度、金融機関やステイクホルダーを招いた経営方針説明会を開催しています。そこで、自社の経営理念や今期の計画を一冊の手帳にして出席者に配布をしています。

この手帳はステイクホルダーだけでなく、社員全員が持ち、毎朝経営理念の確認を行なっているとの話です。しかし社長は、組織図自体にはあまり重要性を感じていないようです。また、各部門には責任者がいますが、基本的には社長が全ての業務を把握しているため、責任者の名前を入れる必要性も感じていないようです。

確かに、組織図は対外的に自社の概要を説明することにも使われます。しかし、それは組織図を作る本来の目的ではありません。組織図には経営に対する考え方や企業の成長度合いが反映されます。

A社の組織は、中小企業には典型的な文鎮型ですが、折角組織図を作ったのであれば、単なるステイクホルダーへの説明としてではなく、社員に責任を意識させ、より成長を促すツールとして活用した方が良いと感じます。

なぜ名前が必要なのか

責任者の名前が入るだけで、名前を書かれた人は部署に対する責任を意識するようになります。そして、周りの社員もその人を責任者として見るようになります。組織図が金融機関や外部のステイクホルダーにもシェアされているA社のような企業であれば、責任者は、部署の仕事や役割に対する責任を一層感じることでしょう。

新聞に記事を書いた記者が署名をするように、組織図に名前が書かれた人は、そこに責任を感じ、仕事に対する取り組み姿勢が変わってきます。

また、組織図上の部署の分け方や、レポートライン、人の配置方法等を見れば、経営者が事業をどのように伸ばしていこうとしているかがわかります。

経営者が組織図に責任者の名前を入れる必要を感じていないということは、自分が全権を握っているから使用人の名前を入れる必要がないと思っているのか、組織図自体に重要性を感じていないかの何れかです。

しかし企業が一定規模以上の大きさになれば、経営者が一人で事業のすべてを見ることはできなくなります。事業を発展させたいのであれば、社員が成長して、経営者の仕事を代行できる力をつけなければなりません。

企業が成長する発展段階

人と同じように、企業の成長にもいくつかの発展段階が存在します。

図表2は1979年にラリー・グレイナー博士が唱えた企業の発展段階の図です。グレイナーは、「成長する企業は、革命の段階と呼ばれる5つの発展段階を経る必要がある」と言います。

 

図表2: 組織の進化段階と革命段階

画像2

(出典)「企業成長のフシをどう乗り切るか」ラリー・グレイナー著を加工

 

多くの企業は発展段階の節目に差し掛かると、組織がうまく機能しなくなります。そしてその状況を放置していると、次第に経営に悪影響を及ぼすようになります。

図表2にある革命の段階(波線の部分)は、新しい組織活動を模索する時期です。この時期を乗り越えられた企業だけが、次の段階に進めるとグレイナー博士は言います。

しかし、中小企業の多くは、第1段階と第2段階の間(赤い矢印)で成長が止まってしまいます。その理由は、中小企業では、経営者が全てに指示を出す「文鎮型マネジメント」が基本であり、経営者がいつまで経っても権限を各責任者に委譲しないからです。

第2段階の「革命の段階」を乗り越えて、第3段階の「権限委譲による成長」に進むためには、経営者は文鎮型マネジメントを辞め、自らの権限と責任を社員に委譲しなければなりません。

オーナー経営者にとっては、抵抗感が強いことかもしれませんが、まずは組織図を見直し、各部・課に責任者の名前を書き込んでみては如何でしょうか。

組織図を書くことで、組織のどの部門に人材が足りないか、今後の事業成長のためにどの部署に人材が必要か等を経営者が認識する良い機会にもなります。そして、組織図に責任者(候補)の名前を書くことで、経営者はその人に足りない部分を考え、それを埋めるための方策が頭に浮かぶはずです。

「人もいないし、組織といっても実態は全て経営者である自分が決めている」という企業でも、まずは組織図を作って責任者の名前を入れてみて下さい。

名前が入った組織図の作成は、中小企業が文鎮型マネジメントから脱却し、次のステージへの成長機会となるはずです。 

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⇨ 中小企業が成長する組織図の作り方

⇦ 従業員を適正な労働時間で働かせるために企業が行うべきこと