プロの経営者に求められる「融合する力」~「知の探索」と「知の深化」

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「知の探索」と「知の深化」

皆さま、あけましておめでとうございます。年末から正月にかけてやるべきことを片付けている内に連休が終わってしまい、明日からまた仕事です。新たな年の始まり、皆さまが素晴らしいスタートを切れることを願っております。

さて今日は、「プロ経営者」と呼ばれる人たちについて考えてみたいと思います。投資ファンドと仕事をしている時、「伊藤さんはプロ経営者としてどういうゴールを目指しているのですか」と言われることがありました。しかし私は、自分のことを「プロ経営者」と呼ばれることに違和感をもっています。何故なら、自分で事業を立ち上げたわけでも、リスクを取って経営を行っているわけでもないからです。

私は、自分のことを単なる「雇われ経営者」だと思っています。仕事の対価として報酬を受け取るという意味ではプロですが、プロサラリーマンという言い方に違和感があるように、経営者もオーナーでもない限りサラリーマンと同じ「雇われ」です。事業のために個人保証を銀行に差し入れ、多くの従業員やその家族の生活を全て背負って汗を流しているオーナー企業の経営者とは、抱えるモノの重さが全く違います。

「プロ経営者」とは、本来、全てのリスクを自分で抱えて経営を行っているオーナー経営者だと思っていますが、世の中一般的には「プロ経営者」と言うと、業界や業種に関係なく企業を渡り歩き、経営を行う人材をイメージする人が多いようです。

日本では、新卒で入社して何十年も同じ企業で働き、課長、部長を経て、役員や社長になるのが一般的です。同じ企業で働く限り、外に目を向けることはありません。もしかすると競合他社のことすら知らないかもしれません。しかし、例えばアメリカの企業では、タバコの企業で働いていた経営者が、IT企業の経営者になるようなことは普通に起こります。

新たに来た経営者は、企業内の歴史や人脈だけでなく、これからの市場がどのように変化して顧客が何を求めるのか、自社にはどんな資源があるか、今後どうやって顧客が求める製品を作れるか等々を考え、企業が保有する知的資産を有効に使って経営を行います。

早稲田大学大学院の入山章栄教授は、人・組織が新しい知を生み出すためには、自分の現在の認知の範囲外にある知を探索し、それをいま自分の持っている知と新しく組み合わせる『知の探索』が必要であると説いています。

そこで探索された知を徹底的に深掘りし、何度も活用して磨き込み、収益化する『知の深化』を行うこと。それによって知の探索で得られたものが、商売として成り立ち、企業に持続性をもたらすとしています。(「世界標準の経営理論」ダイヤモンド社)

日本の企業は知の深化には非常に優れていますが、知の探索については十分とは言えません。戦後の成長期には、貪欲に海外や他業種のビジネスモデルを自社の経営に応用し、新たな研究や事業にチャレンジしてきた日本の大企業も、今や目先の収益を追って、リスクを最小限にすることばかりに気を取られています。このため日本の企業では、中長期的なイノベーションが枯渇してしまっていると入江氏は指摘します。

さまざまな業界でマネジメントを行ってきた人材は、『知の探索』を行うことに優れています。多くの日本企業は、その企業独自のスキルや技術で高い品質の製品やサービスを作ってきました。そして規模の大小はあっても、それらを徹底的に磨き上げ収益化する『知の深化』を行ってきたはずです。「プロ経営者」と呼ばれる人たちは、この企業が保有する知と、自らが持つさまざまな能力を融合させることで、企業を一段も二段も上の成長ステージに導くことができるはずです。

日本の大企業は、外部からなかなかマネジメントを採用しませんが、投資ファンドは「プロ経営者」を外部から連れてきて、その企業が持つ素晴らしい技術や製品をより大きな市場に広げ、組織をあるべき姿に再構築させます。そうすることでお互いが持つ『知』を融合させ、企業を新たなステージに押し上げることが実現できるのです。

日本企業が世界で戦い、生き残っていくためには、中長期的な知の探索によるイノベーションが重要です。しかし、同じ会社で仕事を続けている経営者は、どうしても『知の深化』だけに囚われてしまいがちです。経営陣をプロパーの人材だけで固めずに、外部から「プロ経営者」を採用し、中長期的な成長に向けた化学反応を起こすことが、今後はどこの企業でも求められます。

ただ、実際にメディアでもてはやされる「プロ経営者」が本当に中長期的な視点をもっているかどうかは疑問ですが。。。

 

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