中小企業のグローバル人材戦略 第13回

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幹部候補生を海外から新卒で採用する

日本企業が海外子会社の現地化を推進する為には、グローバル事業の歴史が長い欧米企業並みに人事基準や制度の整備を行う必要があるかもしれません。しかし多くの企業では、欧米企業と同じようにグローバル化を図ることは困難です。段階的に社内に異質な文化を取り込むと共に、海外子会社の従業員にも日本本社の考え方を伝える仕組み作りが必要となります。

東南アジア各国の報酬水準は毎年上昇し、マネージャークラスはかなりの高給になってきています。実際、現地で良いマネージャーを採用しようとすると、日本駐在員よりもはるかに高い報酬をオファーしなければならないこともあります。そもそも現地では、日系企業は昇進の機会が限られていると思われているため、就職先としての人気はそれほど高くはありません。それでも学生の中には、日本で働いてみたいと考える学生がまだ数多くいます。日本のアニメやテレビドラマに興味を持ち、日本に旅行することが夢という学生とも沢山出会います。

日本企業が将来の幹部候補生を採用するという募集方法は、タイやフィリピンでは思った以上の大きな反響がありました。ガラスの天井があると思っていた日系企業で子会社の幹部や社長、或いは日本本社の幹部やグループ会社の幹部になれるチャンスがある。しかも、企業が給料を払って日本語の研修を受けることができ、一定の成績をクリアすれば日本で働くこともできる。この制度は、特に後者の「日本語の研修を受け、日本で働く機会が得られる」という点の方が響いたようです。それだけ現地の学生が自分への投資に貪欲ということでしょう。

採用した優秀な現地新卒からは、日本の大企業では自分たちの違いや優位性が明らかにできないという話も多く聞きました。大企業には、優秀な成績で大学を卒業し、英語を話せる人間は数多くいます。また日本の大企業は育成スピードが遅いと思われているため、彼らの成長意欲を満たすことが難しいと感じているようです。更に、中堅・中小企業であれば、英語や現地の言葉を話せる、現地の事情に通じているという点に関しては、日本人社員と比較しても大きな優位性があります。仕事に関しても、外国人を幹部として採用し、海外事業を伸ばそうと考えているような成長意欲のある中堅・中小企業には、さまざまな業務に関わるチャンスがあるはずです。企業が日本語の習得費用を負担してくれ、日本本社で日本人の仕事のやり方を実践で学ぶことができる機会は彼らにとって大きな財産になります。

働く場所については、当初私は「日本といっても彼らがイメージしているのは東京や大阪のような大都市や、京都や鎌倉のような日本的な場所であって、不便な田舎の都市で生活するのは難しいのではないか」と考えていました。実際には、東京のように人が多くスピードが速い都市で生活するよりも、地方で働く方が精神的に遥かに楽で快適であったという意見の方が数多くありました。また人と人のつながりという面でも、地方の方が社員との交流も多かったようです。

日本での育成

地方、それも工場がある様な場所では交通手段が車しかない場所が多く、海外から来た外国人が一人で生活することは非常に困難です。前述のZ社は、移動手段として車が必要と考えていたため、免許の取得費用も企業側の負担で準備しているのですが、実際に免許を取る人はこれまで一人もいません。仕事では、同僚や先輩が車で彼らをピックアップしてくれ、休みの日にもバーベキューに行ったり、家に招いてくれます。また、自転車で買い物や遠く離れた駅まで移動することができるので、あまり車を運転する必要を感じていないようでした。

こうしたことを考えても、中堅・中小企業にとっての企業のネームバリューや規模、地方にある企業にとってのロケーションが優秀な外国人新卒を採用する際の障壁になることは全くありません。もちろん、企業が彼らを幹部候補生として採用・育成するための準備がしっかりされていることが大前提です。また採用する学生も、優秀なだけではなく、人柄が良く誠実な、育った環境が見えるような人物であることが必要です。この見極めについては、それぞれの国で難しい部分がありますが、日本で大企業が学生を採用する基準とほぼ同じと考えても良いでしょう。

人間関係が閉鎖的な地方で、工場の同僚や先輩が毎日車に同乗させてくれたり、自宅に招いてくれるのも、彼らの人間性が評価された結果と考えます。

最後に、外国人新卒の採用・育成には、かなりのコストがかかると思われるかもしれません。実際には、タイやフィリピンの大卒社員の初任給は日本に比べて安いため、現地での日本語研修や、日本での住居等生活費用を勘案しても、そのコストは日本人の採用と比較してそれほど高くはなりません。

彼らには、現地では現地基準の給与を支払い、日本では日本基準の給与を当然支払います。日本での住居も、日本で同期となる新卒社員が入るアパートやマンションを手当します。その点は日本で採用した新卒と全く区別しません。基本的な考え方は、日本人の海外駐在と同等の扱いです。それでも、海外に事業を拡大するための費用対効果が大変優れた、価値のある投資だと思います。

彼らは日本での研修を終えて帰国すると現地で管理職になります。その際に支払う報酬や手当は当然現地基準です。本ブログの中小企業のグローバル人材戦略 第6回でご覧いただいた通り、日本人が海外に駐在した場合のコストは非常に高くなります。例えそれが、入社したばかりで仕事の内容もまだよく理解しておらず、ましてや海外で働くのも初めてという若手社員であっても、現地の経営層と同じレベルの報酬となってしまいます。

右も左もわからない本社の日本人が現地でいきなりマネージャーとなる。確かに若手や将来の幹部社員候補にとっては大きなチャレンジになりますが、そういう人材が高い報酬を得ていることを知れば、現地社員は決して良く思わないのではないでしょうか。

ここで書いてきたように採用・育成された外国人新卒が、現地に戻り、マネージャーとなれば、会社にとっては、今まで以上に有能な戦力となります。もちろん、彼らは幹部候補生なので、与えるポジションや報酬はそれなりのものを用意する必要がありますが、それでも日本人を駐在させるよりははるかにコストもかかりません。また、幹部候補生として選抜された人材であるという自負は本人のやる気(モチベーション)を向上させますし、現地同僚社員も、「彼らは特別」と最初から理解させておけば、嫉妬もあまり起こりません。

最も大変なことは、採用した人材を誰(どの部署)がどのように育成し、成長過程をモニタリングするかです。現地から日本、そして現地に戻るまで、しっかりと成長を見届け、何かあれば相談に乗り、適切なアドバイスとフィードバックを本人たちに行わなければなりません。たアジアは、地理的、人種的には日本に近いですが、考え方やコミュニケーションの方法、親族や地域との関係は国によってそれぞれ違います。いくら優秀で性格が良さそうに見えても、この辺をよく理解せず安易に採用してしまうと、あとから大変な事態が起こり得ます。(事例集の事例3等)

現地での募集方法やレジュメの選び方、面接やその後の調査で確認すべきこと、日本語学校での教育、そして日本での育成方法等については、本社の人事部門や現場に任せるのではなく、外部の力を活用して注意深く進めることをお勧めします。

 

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