中小企業のグローバル人材戦略 第9回

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将来の『仲間』の採用

日本企業の現地化を促進するためには「日本企業が信頼できる現地人材の育成」が最も大事です。海外子会社の現地幹部は、どれだけ優秀でも途中からムラに入ってきた異質な存在です。日本企業に受け入れられるためには、まっさらな状態、つまり新卒でその企業に入社することが重要です。そのため、日本企業には、現地の大学で、新卒学生を将来の幹部候補として採用する方法が有効と考えます。

もちろん、アジアでは日本語が話せる優秀な大学生は引っ張りだこです。理工系の優秀な大学生は地元、外資系企業問わず日本の新卒採用以上の争奪戦です。しかし、それ以外の学生、例えば文学部や理系でもマイナーな学部の学生は、成績が良くても就職率はあまり良くありません。殆どの学生が卒業後しばらくしてから就職先を探します。

現地のトップ校に入学した学生は、どの学部であっても難関試験を突破してきた優秀な人材です。学ぶことに対する意欲は高く、何に対しても熱心に取り組みます。むしろ、卒業の1年も前に就職が決まる日本の新卒市場が異常なのです。海外では、多くの学生が、卒業後に就職が決まります。

日本の企業が国内で採用を行う場合、特に事務系の学生であればあまり学部に拘りません。基本的には、入社後に、周りと上手くコミュニケーションが取れそうな、地頭が良く、社風に合った人材を採用しているはずです。そういう基準で採用された学生が企業で一から育成され、「ムラ社会のインサイダー」となり、グローバルに仕事をするようになります。それならば、海外の優秀な学生がこの新卒採用の流れにのれることができれば、インサイダーになれるのではないでしょうか。

海外で新卒を採用する方法としては、まず子会社がある国で、優秀な大学の新卒を募集します。現地のトップ行5校程度をターゲットとし、学部や日本語の可否は問わず、GPA3.0以上を応募基準とします。大学の成績が良いという点は大事です。実際には人物を重視するため、GPA2.5ぐらいまでの学生は許容して良いと思いますが、基本的には大学でしっかり勉強した人材を採用することが大事です。

募集については、最初は現地の人材紹介会社に依頼します。最近ではアジアに日系の人材紹介会社が進出していますので、そういう会社を選ぶのも良いでしょう。そして初年度に何名か採用できれば、2年目からは採用した社員を中心として大学が主催する就活イベントに参加します。そこにブースを設け、1年目に採用できた現地社員が学生に就活のプレゼンテーションを行います。

このイベントが上手く行けば、人材紹介会社を利用しなくても、参加した学生から直接レジュメが数多く届きます。イベントは、初年度に採用した優秀な若い社員に任せ、現地の日本人は、あまり口を出してはいけません。現地駐在の日本人にはそもそも人事経験者がいないはずですから、1年目の社員だけで心配であれば、本社からサポートスタッフを呼ぶか、最初は現地の紹介会社に手伝ってもらっても良いかもしれません。

インサイダーの育成方法

1年目の社員はどのように育成するかというと、業務を行いながら、現地の日本語学校に通わせ、まずは徹底的に日本語を習得させます。目標は、日本語能力試験2級(N2)の合格です。採用した学生は優秀ですから、早ければ1年、遅くても2年でこの試験に合格できるレベルになります。そして、そこまでのレベルになれば、日本に派遣して、日本本社で採用した新卒社員と同じ研修を受けさせます。研修で1~3か月間、仲間と同じ釜の飯を食い、時には朝まで酒を酌み交わす。この新人研修が、外国人新卒社員がムラ社会の「インサイダー」として認められる第一歩となります。

新人教育が終われば、日本本社で、製造、営業、管理等、各部門で3年程度の業務を行わせます。この3年間は、会社の製品やサービスについての知識だけでなく、人的ネットワークを築くことが目的です。また、部門としては管理部門での経験を最も長く積ませます。そして、3年間~5年間経てば、彼らは一旦海外子会社に戻します。

海外駐在する日本人は、経営経験がない人、管理部門のことを知らない人が多いはずです。組織のマネジメントは、営業や製造のスキルとは全く異なります。日本人を日本語でマネジメントすることすら難しいのに、その経験もない人が、言語や生活様式、習慣や法律が違う国で組織をマネジメントするのは至難の業です。そもそも、営業や製造の状況を見るのが精一杯で、管理までは手が回らないのが実態です。この結果、現地の社長は、売上や製品品質は気にしても、管理面については現地従業員と本社に任せっきりという経営になってしまいます。

経営に際し、人事・財務経理・総務、ITといったリスク管理部門を人任せにするのは大変危険です。売上や製造だけにしか興味を持たず、管理を疎かにすると、リスクコントロールができなくなり、とてつもない損失が発生します。日本でも、近年CFOの重要性が認識されてきましたが、本来、管理の責任者が信用できる人材でなければ、安心して企業運営はできません。

 

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