中小企業のグローバル人材戦略 第4回

日本企業には、なぜ駐在員が多いのか
Schaaper氏は、日本企業が欧米企業と比較してアジアの子会社に未だに多くの駐在員を置いている理由は3つあると指摘しています。まずひとつ目は本国からの距離です。日本から派遣される駐在員は、家族を日本に残し現地で働く場合でも、月に数回帰国することが可能です。しかし欧米からアジアに駐在する場合は、家族の元に頻繁に帰ることはできません。共働きが一般的な欧米企業の従業員が、遠く離れた地に駐在することになれば、パートナーのキャリア継続の問題があるため、基本的には家族と離れた生活を強いられることとなります。
次に、日本企業が1990年代初期に円高と経済不況の影響で、国内での生産が維持できない状況であったことです。日本ではバブル崩壊後、国内では現場の労働者だけでなく、中間管理職も含めた人件費のカットが必要となりました。そのため、中間管理職や現場の労働者を海外の工場へ数多く派遣する必要を理由として挙げています。
そして最後に、日本企業が海外で事業を行う場合は、欧米企業と比較すると本国からかなり多くの社員を派遣していたことです。日本企業は現地に駐在する社員を減らしてはいるものの、元々派遣していた人数が多いため、急にその数を減らすことはなかなか難しいという問題もあります。このため、日本企業は現地への出張という形で日本から短期派遣を繰り返すことで、現地の経営体制維持を図っている会社もあります。
Schaaperが主張する1つめと3つめの理由については私も同意します。欧米からアジアに駐在し、毎月何度も本国に帰っていては、時差に加え往復するだけでも疲れて仕事の効率が悪くなってしまいます。幸か不幸か、日本はアジアからの距離が近く時差もないため、必要な業務には出張で対応することも可能です。これはさまざまなコストや組織上の効率面から考えてもリーズナブルな考え方だと言えるでしょう。
また日本の家庭では、結婚すると女性が専業主婦となることが多かったため、1990年代まで、家族の現地帯同は欧米諸国ほど問題になりませんでした。しかし現代では、欧米企業と同様に、海外駐在となればパートナーの仕事が問題になります。一方が海外駐在となれば、単身赴任か、もう一方がキャリアを中断して現地に帯同しなければなりません。
Schaaperの2つ目の見解について意見は若干異なります。確かに1990年代前半、日本企業はアジアへの投資を加速しました。しかしその大きな理由は円高だけではありません。当時アジアの各国で投資規制が緩和され始め、日本企業がマジョリティを取って投資できる国が一気に増加したことが原因です。私は同時期にインドネシアに駐在していましたが、インドネシアでは1980年代後半から投資政策が緩和されたため邦銀が相次いで進出し、また、商社が中心となった工場団地の開発も進みました。金融と工業団地というインフラ環境が整備されたことで、日本からの製造移転が起こる基礎ができたことが、投資加速の理由です。
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