事業の収支計画~小規模M&Aのアドバイザリー事業①

事業の対象と前提
M&Aアドバイザリー事業は、売上1億円程度未満で、経営者が高齢な企業を対象とします。この領域の市場ではWEBでの企業売買が主流ですが、高齢経営者が自分でWEB登録を行い、相手と交渉し、契約を締結することは現実的ではありません。そのため、売り手側のアドバイザーとしてWEB上でのマッチングをサポートする事業となります。
WEB上でのマッチングならば、M&A仲介会社が行うような大量の資料を作成する必要もなく、契約書等もフォーマット化できます。買い手はネット上で探すことを基本としますので、サーチの手間とコストも大幅に省略できます。
神奈川県の事業引き継ぎセンターに、2018年の1月~7月に持ち込まれた譲渡希望案件は167件でした。その内、外部の登録民間支援機関に橋渡しを行った件数は、わずか3件(1.8%)です。そして84件は案件登録され、事業引き継ぎ支援センターでサポートを受けているものの、成約率は5%程度でしかありません。
関東全域でみると、事業引き継ぎ支援センターに寄せられる1年間の譲渡希望相談数[1]は、約820件(東京都250件、茨城県60件、栃木県90件、千葉県100件、埼玉県100件、神奈川県180件、山梨県40件)となっています。これらの数字を基に、神奈川県のケースを関東全域に当てはめてみると、相談数820件の内半数の410件が、おそらく事業引き継ぎ支援センター内でサポートを受けていることになります。収支計画策定をする際は、この410件をポテンシャルカスタマーのベースとします。
事業引き継ぎ支援センターへの相談件数は、4,927件(2015年)、6,292件(2016年)、8,526件(2017年)と毎年大幅に伸びています。収支計画ではこの急激な伸びを、ある程度勘案して策定することとします。事業引き継ぎ支援センターが相談を受けた中で、登録民間支援機関に橋渡しができる案件は全体の2%程度しかありません。その理由は、相談を受ける殆どの企業が個人事業者や小規模企業であり、現状の民間支援機関では支援が難しいからです。しかし、本事業でマッチングの可能性があると判断されれば、事業引き継ぎ支援センターからの橋渡しが十分期待できると思います。
尚、案件の取り込みには、銀行、会計事務所等、事業引き継ぎセンター以外のネットワークも活用します。地方銀行の事業承継に関わる2016年の相談件数は、事業引き継ぎセンターへの相談件数の約4.5倍でした。このことから、本プロジェクトでは、小規模で、M&A仲介会社が利用できないような地方銀行の取引先の紹介も取り込める可能性があると思います。【図表】
図表:M&Aアドバイザリー事業のストラクチャーの例

M&A手数料
最後に売り手側が支払う報酬についてです。M&A仲介会社の報酬には最低基準があり、大手仲介会社で15百万円~25百万円、中小でも5百万円程度となっています。本事業では、報酬は譲渡金額の10%、最低金額は1,500千円とします。計画上、2年目まではアドバイザーは少人数で対応できますが、全国に範囲を広げる4年目以降は毎年10名単位で増加させていく必要があります。このため、それまでに中小企業診断士のネットワークや55歳以上で金融機関の一線から退いた人材等の採用を進めます。
米国では、小型のビジネスブローカーが数多く存在しますが、ブローカーを通して売買が成約した企業の売上高の中央値(2017年)は55百万円でした。また売り手側の経営者の希望売却価格の中央値(同年)は日本円で27.5百万円です。米国市場はもちろん日本とは異なりますが、ビジネスブローカーが取り扱うこれらの規模の売買が、年間10千件近くある点は注目できると思います。
前述のM&A仲介会社B社代表によると、このブローカーが取り扱う案件以外にも、開示されてないものを含めると、年間600千件の事業売買がおこなわれているとのことでした。これらの話から考えると、今後M&Aのサイトの件数と掲載案件数が増加すれば、日本でも小規模事業の売買がビジネスとして成り立つと考えます。
[1] 田口義久『茨城県事業引き継ぎセンターの活動状況について』(2018)p3.水戸商工会議所https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/data/rel180515a4.pdf
『事業承継問題の最前線から』(2018)山梨総合研究所https://www.yafo.or.jp/2018/07/31/9959/
(2019年1月23日閲覧)及び中小企業基盤整備機構へのインタビューから試算。
⇦ 事業の収支計画
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