PEファンドの買収後、経営者が急逝した食品製造業のF社

オーナーの急逝
ここからは、事業会社がどのようにM&A仲介会社やファンドを見ているか、また、実際にM&A後のPMIをどのように行っているか等を見ていきたいと思います。
F社はPEファンドが投資をした食品製造業で、グループ10社で売上200億円、従業員数は500名の中堅会社です。同社の監査役に話を伺いました。
F社の持株比率は、ファンドが51%、オーナーが49%でしたが、経営は引き続きオーナーに委ねていました。ところが前オーナーが体調を崩してしまったため、1年後には外部から社長を招聘し、前オーナーは会長となる予定でした。しかし、外部から招聘した経営者が社長となる株主総会の直前に、この前オーナーが突然亡くなってしまいます。すると、これまでオーナーの陰に隠れていた長男が会社の経営方針や、経営権を巡ってファンドと対立するようになりました。
ファンドと長男の対立により、株主総会は開催が遅れ、最終的に外部から招聘した社長予定の人材の代わりにファンドの責任者が新社長に就任することとなりました。ただ、ファンドの責任者にはほとんど経営経験がありません。このため、新社長となった責任者は、社内の人心掌握ができず従業員のモチベーションが大きく下がります。この結果、製造現場ではトラブルが頻発する事態となり業績も急降下、各部門の責任者は次々と退社し、銀行への返済猶予や事業の縮小を余儀なくされてしまいました。
ファンドと経営者の役割
お話を伺った監査役によると、失敗の原因は、まず、ファンドが高齢であった前オーナーの株式を買い取る際、相続発生時の取り決めについてしっかりと契約していなかったこと。次に、これが最も大きな問題ですが、経営者の監督を務めるべきファンドの責任者自らが、慣れない経営を行ったことにより企業統治がおかしくなってしまったことです。
そもそも高齢の社長の株式を51%しか買い取らないのであれば、相続が発生した場合に残りの株式をどうするかは決めておかねばなりません。また、本来ファンドの役割は、株主として経営陣の経営を監督し統治することです。ファンドの責任者自らが経営を行えば、監督業務をすべき人がプレイヤーとして経営を行うことになってしまいます。
ファンドの責任者は一般企業でいうと経営層にある人です。本来、経営を監視する立場のファンドの人間が、自ら経営を行うとなると、ガバナンスに問題が発生しても、それを諌める人がいなくなってしまいます。実際にF社は1年後に経営状態が悪化し、資産を切り売りしなければならなくなりました。
ファンドが外部から経営のプロを連れて来るには理由があります。このケースでは、相続人ともっと交渉して、外部から招聘した優秀な経営者に経営を任せ、責任者は本来の役割に戻るべきでした。
オーナー企業の経営をファンドと外部から採用した経営者が如何に引き継ぐか。ガバナンスという観点から、ファンドと経営者の役割を明確に分けなければ、引き継いだ企業の業績を上げることが難しいという良いケースかもしれません。
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