行政による事業承継支援(まとめ)~地域によって異なる需給関係

需給のミスマッチ
事業引き継ぎ支援センターへの相談件数は毎年増加しています。しかし、実際にマッチングができる件数は非常に限られているのが現実です。神奈川県や福岡県といった大都市では事業を売りたい企業よりも、買いたい企業の方が多く、大分県のような地方都市では逆に売りたい企業の件数が多くあるといった需給のミスマッチ問題があります。【図表】
図表:大都市と地方の譲受・譲渡案件の割合

(出典)神奈川県・大分県事業引き継ぎ支援センターより聴取して筆者作成
全国の事業引き継ぎ支援センターに、メールや架電、インターネットで調査したところ、東京都や神奈川、大阪等では譲受希望の方が圧倒的に多く、栃木県や山梨県、秋田県、島根県、山口県といった地方都市では譲渡希望が多いことがわかりました。
中小企業基盤整備機構によると、2017年の全国のセンターへの相談社数は8,526社、この内譲渡希望は3,453社、譲受希望は3,465社とほぼ拮抗しています。
全体ではバランスが取れているものの、大都市と地方都市の間では、売り手と買い手の需給バランスが異なっています。
近隣の県との間で情報交換を行っている事業引き継ぎ支援センターもありますが、実際には県を跨いだマッチングは非常に少なく、どこもあまり積極的に行っている感じは受けません。
今後、相談件数が更に増加することが予想される中で、各センターでの成約率が5%程度という実態を考えれば、各県が持っている情報を誰もが見られるWEBサイト等に掲載して、マッチングを一気に促進するような仕組みが必要になると考えます。
少ない担当者
事業引き継ぎ支援センターのもうひとつの問題は、相談が必要な企業数に対して、担当者の数が圧倒的に少ないこと、そして小規模な案件に対して十分な対応が出来ていないことです。
センターに持ち込まれる案件の殆どは小規模案件ですが、これらは民間仲介会社への橋渡しが難しいため、現状ではほとんど誰にもフォローされていません。
この状況を変える可能性として、大阪商工会議所の「スモールM&A市場」の取組が非常に参考になります。同会議所の手数料は最低手数料が2百万円ですが、成約率が2割にも達していました。
最低報酬額を15百万円~25百万円としているM&A仲介会社が手数料2百万円でマッチングを引き受け、更に商工会議所に紹介料まで支払う理由は情報収集や広報コストと言って良いかもしれません。
しかし仲介会社によると、案件単体だけでも採算が採れているとのことですので、ここに低額の料金体系でもM&A事業が成り立つ可能性を見出しました。
米国には小型M&Aを取り扱うブローカーが数多く存在します。2017年のブローカー成約実績では、売上高55百万円程度の企業数が最も多くなっています。
また、売り手の売却希望価格で最も多い価格帯は30百万円弱でした。これらの企業や取引額は、日本ではあまり取り扱われない価格帯ですが、米国ではこの規模の企業を取り扱うブローカーが多数存在しています。
今後日本でもM&Aの件数が増えるにつれ、小規模M&Aを支援するサービスの増加が期待できます。
またフランスでは、日本の事業引き継ぎ支援センターのような機能が商工会議所等にあり、職員が常勤のカウンセラーとして小規模企業の事業承継支援を専門的に担当しています。
ある商工会議所では、20人の相談員が譲渡希望企業と譲受希望企業を年間2,350件も仲介し、220件の事業承継を実現しています。(村上義昭「フランスの事業承継と事業承継支援策」『国民生活金融公庫 調査季報』第84号 )
この背景には相談案件のデータベース化と、それらが検索できる仕組みがあるようです。
前述のケースであれば、単純計算でも担当者一人で120件弱のマッチングを行い、その中から11件の小規模企業の売却を成約させていることになります。
支援人員が限られる日本でも、フランスのように案件をデータベース化して一般に開示すれば、マッチング率の大幅な上昇が期待できると考えます。
M&Aを取り扱う金融機関や仲介会社は、手間が同じであれば、少しでも大きな案件を狙うはずです。米国やフランスに於けるマッチング方法を参考に、小規模M&A市場を開拓することができれば、十分にビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。
ただ一方で、東近江市の取組を見ると、地方企業に於ける事業承継の難しさを実感します。
地方の中小企業にとっては、後継者として興味を持ってくれる人がいるだけでも有難いと考えてしまいます。しかし地方企業の要望は、「土地の習慣に従える人だけに来て欲しい」、「人物が見定められるまでは事業は引き継げない」、「この条件を理解できる若い人に来て欲しい」といったものです。
外部の人材に対する要求レベルがかなり高く、マッチングが簡単ではないことが理解できました。
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