ストックディールが主流~日本企業のM&A

デロイトトーマツコンサルティングの松江氏は、M&Aの成功はその大半がPMIにかかっている。しかし、多くの日本企業は海外での買収に於いて、これまではPMIをやってこなかったのに等しいと指摘しています。(松江英夫『ポストM&A成功戦略』ダイヤモンド社[2008年])
ウイリス・タワーズワトソンは「M&Aが失敗しても、その責任は経済環境など外的要因に転嫁されてしまい、経営責任を問われたという話はあまり記憶にない」とした上で、「こうしたガバナンスに対する甘さが、PMIへの意識を希薄化させてしまう一因となっているのではないか」と推測しています。(ウイリス・タワーズワトソン『M&Aシナジーを実現するPMI』東洋経済新報社[2016])
日本企業が行うM&Aには、
①M&Aを実行する責任者と買収した後の経営を行う責任者が異なる
②企業の責任所在が曖昧
③ガバナンスに対する考え方が甘い
といった点があります。
またこれらに加え、買収後のPMIに際しては、
①買収企業に対して配慮すべき
②最初から自分たちのやり方を押し付けて反発を受けるのは得策ではない、
③時間をかけて一緒になれば良い
という意識もあるようです。
海外でM&Aを行う場合、買収した企業の経営ができる人材が社内にいないことも大きな要因でしょう。
実際に現地でビジネスを行った経験を持つ人材がいないため、日本本社から経営陣を送るより、買収先経営陣の方がビジネスに精通していると考えるのかもしれません。
ウイリス・タワーズワトソンが指摘するように、日本企業が海外企業を買収する案件では、ストック・ディール(単なる株式取得)が大半を占め、買収後も従来通りの経営をそのまま続けさせる企業が数多くあります。
大企業であっても、買収後のPMIをほとんど実施しない日本企業も少なくありません。
しかし、買収先経営陣がこれまでと同じ経営を続けならば、買収後に新たなシナジーを創出してプレミアム分を回収することは難しくなります。
M&Aでは、「シナジー」が机の上で鉛筆を舐めながら作られることが少なくありません。
「M&Aをやる!」と経営者が決め、経営企画の責任者が話を進める課程で、どうしても価格が合わないという事態になったとします。
その時に「このM&Aの価格は高すぎるので辞めましょう。」と言える企画部門の責任者は日本にはあまりいないはずです。
仮に言っても、経営者は買収モードに入ってしまっているため、案件を何とか成就させようとして、
「できない理由を並べるな!どうやったらできるか考えろ!」
と言われてしまい、仕方なく企画部門の責任者は素敵な未来図を描いて契約を締結します。
しかし、こうして買収した企業の経営(PMI)を行うのは現場の事業責任者です。
「出来ない言い訳をするな!」と言われても。。。
そんな現場の嘆き声が聞こえそうです。
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