事業承継は誰に相談するべきか~税理士?会計士?銀行員?

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多くの中小企業経営者は顧問税理士に相談

下の図は、中規模法人の経営者が、事業承継の際、過去に相談した相手を調査した結果です[1]

この調査によると、後継者の決定・未決定に関わらず、相談相手は「顧問の公認会計士・税理士」が最も多く、「親族・友人・知人」、「取引金融機関」がそれに続いています。

特に、後継者が決定している中小企業にとっては、一番の相談相手は日ごろから付き合いのある顧問の会計士・税理士という結果になっています。

多くの中小企業経営者にとって、顧問会計士・税理士は何でも知っている「先生」かもしれません。経営者は営業や製造のスキルや知識はありますが、経理や税務の知識はない方が圧倒的に多いです。このため、帳簿の作成や経理、更には税務に関しては税理士の先生に丸投げという経営者も少なくありません。

もちろん、税理士や会計士の中には、会計や税務のことだけでなく、事業承継やM&Aに関しての知識も豊富、中には経営に関してもコンサルタントレベルができる、「何でも知っている先生」も確かにいらっしゃいます。

しかし、税理士や会計士は法人税、所得税に関する知識や経験は豊富でも、会社分割や相続税対策が必要となる資産税について取り扱ったことがある先生はほとんどいないはずです。

「会計」や「税金」のプロである会計士・税理士でも、企業の事業戦略上必要な税務についてまでは知らないことが普通です。特に地方都市では、そういう先生を探すことは至難の業でしょうし、たとえいたとしても、報酬が非常に高いため、普通の中小企業がそういう先生を顧問にしていることはまずないでしょう。

ですから、事業承継等やM&A等、専門的な知識を要する話や、企業の戦略について、何でもかんでも、顧問の「先生」に相談すれば解決できるわけではありません。

そういうこともあり、私は、事業承継の話を顧問会計士や税理士に相談することは得策ではないと考えています。ただ理由は、「相談しても適切なアドバイスがもらえないかもしれから」ということだけではありません。

経営者にとって良いオファーがあったとしても、それを顧問の先生につぶされてしまう可能性もあるからです。

例えば、税理士にとって、自分の顧問先企業が第三者に売却されてしまうと、多くの場合、自分の仕事がなくなってしまうことになります。ですから、経営者がM&Aの話を顧問の税理士に相談すると、税理士は途端に保守的になってしまい、適切なアドバイスどころか検討を辞めるように言う人もいるのです。実際に私の知り合いの経営者が、ある企業から買収の話を受けた時、顧問税理士に「こういう話がきている」と話したところ、税理士から、「代々続いた会社を売却するなどもってのほか!」とお叱りを受けてしまったと言っていました。

金融機関に相談すると

また反対に、話をすると積極的にその案件を進めようとする人たちもいます。それは金融機関の人たちです。銀行や信用金庫の人たちにとって、M&Aや事業承継は稼ぎ場です。それが企業の買収であろうと売却であろうと、そこで発生する手数料は非常に大きなものになります。本来は預金や貸金といったストック収入がメインだった金融機関も、昨今は手数料のようなフロー収入を稼ぐことに力を入れています。

取引先企業がM&Aで企業を買収する場合は、M&A手数料だけでなく、買収のための貸金需要も発生します。また、後継者がいなかったり、事業の拡大を他の企業に委ねたりするために、売却するような場合でも、売却した先(多くは取引先よりも大きな企業や企業グループ)との新規の取引ができる可能性もあるわけです。

もちろん、税理士や銀行が常にそんなことを考えているわけではありませんが、それでもこういう可能性があるため、昨今はM&A仲介会社に直接相談する経営者も増えてきました。

M&A仲介会社は、メディアでも盛んにCMを流すようになりましたので、今後その流れはますます増えてくると思います。ただ、M&A仲介会社にはまた別の問題がありますが。。。(☞地道な仕組み作りが花開いたM&A仲介会社

事業承継は経営者が一生に一度、しかし必ず経験しなければならない問題です。誰に何をどういうタイミングで相談すべきかをよく考えて対応することが必要です。

 

図表:中規模法人の経営者の事業承継に関する相談相手

(出典)中小企業白書[2017年版]

 

⇨ M&Aマッチング打率「1割未満」の事業引き継ぎ支援センター

⇦ 小規模M&A市場の活性化が期待される事業引き継ぎ支援センター


[1] 「企業経営の継続に関するアンケート調査」(2016年11月、㈱東京商工リサーチ) (注)1.複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。2.「経営コンサルタント」とは、中小企業診断士、司法書士、行政書士を含む。3.それぞれの項目について、「相談して参考になった」、「相談したが参考にならなかった」と回答した者を集計している。

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事業承継は誰に相談するべきか~税理士?会計士?銀行員?” に対して1件のコメントがあります。

  1. 森永逸二郎 より:

    祝さんのブログ熟読中です!事業承継のどういったところが問題なのか、大変勉強になります!有難うございます。少しづづ読み進めております!

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