事業承継に必要なのは後継者探しではない~儲かる事業を目指す

問題は将来性や収益性
【図表1】は、「支援者向平成30年度版事業承継支援マニュアル」の中に記載されている後継者不在で倒産した企業の一覧です。
マニュアルではこれらの企業が倒産した理由は「事業承継の準備不足」であり、「早めに事業承継の準備をしておけば事業が継続できた企業もあったかもしれない」としています。
ただ、この一覧を見る限り、倒産の原因は、単に企業が市場の変化に対応できずに業績が悪化したこと、その結果債務が増加して資金繰りに窮したことが原因であると推測することができます。
事業承継に際しては、「早めの事業承継の準備」は確かに重要です。しかし、この一覧にある企業が行うべきことは、後継者を探すことではなく、既存事業の再生や、儲かる企業体質への再構築でした。
それらが自社ではできないのであれば、事業の再生・再構築ができるコンサルタントや外部人材の支援を受けるか、場合によっては、第三者への事業売却を検討すべきであったと考えます。
図表1:2011年の主な後継者不在倒産

(出典)中小企業基盤整備機構「平成30年度版 事業承継支援マニュアル」
これまで見てきたように、事業承継ができないという問題の多くは、後継者がいないことではなく、そもそも将来性や収益性が乏しく承継するほどの価値や魅力がない事業であることが原因です。将来性や収益性が乏しく負債が大きい会社が後継者を探そうとしても難しいでしょう。
中小企業白書2012年度版では、「中小企業が成長を持続していくためには、事業承継による企業の若返りと、事業承継を円滑に推進する事業環境の整備が重要」と指摘しています。
確かに環境整備は重要ですが、単に企業数の減少だけに目を向けてそれらを行うのではなく、企業の規模や背景を考えた上で施策が実施されるべきと考えます。
前述のように、将来性も収益性もない中小企業の数の維持・拡大を目指すよりも、本当に後継者がいなくて困っている企業のM&Aによるマッチングを促す仕組みや、新たに事業を起こす人を生み育てる環境づくりが重要です。
ニッセイ基礎研究所の中村洋介氏は「後継者がなかなか見つからない状況下、中核人材獲得や生産性向上を果せず、競争力に乏しくなった中小企業の退出(廃業)が一定程度増えていくことは避けられない」といいます。
その上で、「ネガティブな話題が先行する事業承継問題だが、むしろこれを契機に、廃業、再編、経営者の若返り等を通じて、産業や経済の新陳代謝を進め得ていくことも求められる」と述べています。
後継者不在の理由が企業の将来性や収益性にあるならば、なくなってしまうことによって社会的インパクトが大きい規模や業種の企業を優先した支援が必要です。
例えば、日本企業の8割を占める売上1億円未満の企業の後継者不在率は78%に達しています。これに対し、売上100億円未満の企業の後継者不在率は57%、同1,000億円未満の企業は40%弱です。
数だけを考えると売上1億円未満の後継者不在率に目が行ってしまいますが、これらの企業(雇用者9人未満の会社)で働く人は全雇用者の9%程度でしかありません。そうなると、小さな企業に幅広く薄い支援をするよりも、ある程度大きな企業にしっかりと深い支援をした方が効果的かもしれません。
事業承継に於ける支援や環境づくりとして、下記の3つが大事であると考えます。
(1)常用雇用者を数多く採用する企業を優先した事業承継(M&Aや外部人材の招聘)支援。
(2)新たな事業者が生まれる新陳代謝を促進するような支援。
(3)後継者がいない小規模事業を、手間やコストを掛けずに第三者に承継できる仕組み。
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