「後継者がいないから事業が承継できない」は本当か?

廃業意向がある企業
図表1は、中規模法人の直近の売上高経常利益率を、廃業意向の有無別でまとめたものです。廃業意向がある企業は、経常赤字に陥っている割合が35.2%と高く、売上高経常利益率3%未満の会社まで含めると、約8割が収益力の低い企業です。
図表1 :廃業意向別にみた売上高経常利益率(中規模法人)
(出典)中小企業白書(2017)
次に図表2で、廃業意向がある中規模法人とない法人の直近の自己資本比率を比較してみます。
廃業意向がある企業は、「債務超過」の企業がやや多いものの、半分以上の企業が自己資本比率30%以上と、財務面では大凡健全な企業が多いようです。
図表2:廃業意向別にみた自己資本比率(中規模法人)

(出典)中小企業白書(2017)
最後に、廃業意向ありと答えた中規模法人に、理想的な廃業のタイミングを聞いたものが図表3です。
廃業意向を持つ7割強の企業が、累積黒字が確保できているうちに廃業したいと考えているようです。この結果から、これらの企業が借入が多くなる前に廃業することを希望していることが推察されます。
図表3:廃業する上で理想的なタイミング(廃業意向がある中規模法人)

(出典)中小企業白書(2017)
儲からない事業だから後継者がいない
15年前でも現在でも、企業が廃業を考える理由は、やはり業績の不振が廃業の大きな原因であると理解できます。将来の見通しが立たない中で、利益がまだ残っているうちに事業を手じまいしたいと考えるのは当然でしょう。
事業が承継できない理由を「後継者不足」で片づけてしまうのは問題があります。親族に後継者がいなくても、儲かる事業であれば承継したい人材はいるはずです。
もちろん、20年、30年前であれば、親族外のM&Aなど考えられず、廃業を選ぶ企業が多かったかもしれません。しかし現在は、親族内や社内に承継者がいないのであれば、親族外に後継者を求めたり、M&Aで買収先を探すことに対する抵抗は比較的少なくなってきています。
事業を承継できないのは、本当はその事業が儲からないからではないでしょうか。
そうであれば、事業を承継するためには後継者が引き継ぎたくなるような魅力が必要です。
今は収支トントンであったとしても、将来儲かる要素が少しでもあれば、M&Aや第三者の外部人材の招聘等、事業を引き継ぐための経営者の選択肢はかなり広がると思います。
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後半では、小規模M&Aのビジネスモデルに基づいた事業計画の作り方とその根拠を説明しています。ビジネスモデルの作り方や事業計画の策定マニュアルとしても参考になるはずです。
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