なぜ中小企業の数は減るのか①

減っているのは小規模事業者数
総務省の「平成26年経済センサス基礎調査」によると、日本には409万8千者の個人経営者や企業が存在します。
図表1の左側を見ると、「個人経営」が半分以上の51.0%、「常用雇用者数が29人以下の企業」は38.7%となっており、2つの合計は全体の90%を超えます。
一方、右側の常用雇用者数を見ると、雇用されている3,778万人の35%に当たる人が1,000人以上の企業、所謂「大企業」に勤めていることがわかります。雇用者30人以上の中堅企業で働いている人を含めると、常用雇用されている人数は雇用者全体の約8割にも達します。【図表 1】
つまり、中小企業と呼ばれる企業に勤めている人は、全体の2割にも満たず、後の人は、フリーランスや個人で事業を行っているか、中堅~大企業に勤めているかのどちらかであることがわかります。
図表 1:経営組織別企業者数及び会社企業における常用雇用者数とその割合

(出典)総務省「経済センサス基礎調査」[2014]
経済産業省は、企業者全体の99.7%を占める中小企業者数が年々減少していることを大きな社会問題として、中小企業白書で毎年採り上げています。
しかし、「中小企業」と言われるくくりの中でも実際に数が減少しているのは 、個人経営や従業員数(常用雇用者ではありません)が20人に満たない小規模事業者[1]です。
一般の人が「中小企業」と聞くと、ドラマの「下町ロケット」に出てくるような企業を想像するかもしれませんが、あれは従業員が20名以上の中規模企業に当たります。
下町ロケットの工場のような、従業員数が20名以上の中規模企業[2]は、2006年には535千者、2016年は530千者とこの10年間で5千社しか減少していません。つまり、10年間で減少した中規模企業者数は1%程度しかありません。【図表2】
図表 2:中小企業者数の推移

(出典)中小企業庁「中小企業の企業数・事業所数」[2018]
常用雇用者の約8割が中規模以上の企業に勤務しており、10年間で減少した中規模事業者数は1%程度にすぎない。中小企業数の減少は日本経済にとって深刻な問題と言うものの、実際に大きく減っているのは小規模事業者の数だけです。個人事業や数人しか従業員がいない小規模事業と、何十人も雇用する中堅企業を「中小企業」とひとくくりにしてしまうと、問題やその対策がわかりにくくなります。
事業が好調であれば問題なし
では、小規模事業者の減少は日本経済にとってどの程度深刻なのでしょうか。中小企業数の減少を食い止めるためには、何に力を入れれば良いのでしょうか。
減っているのは小規模事業者数だけと言っても、商店街の花屋さんや本屋さんがなくなっても仕方ないということではありません。図表1にあるように、個人経営者は2.1百万人、10名未満の従業員を雇用する小規模事業の経営者は1.3百万人もいるわけですから。ただ、これらの事業や経営者の生活をどう守っていくかは、事業承継問題とはまた別の問題です。
経済産業省が、中小企業数の減少への対策を行っても、小規模事業者の数は今後益々減少します。
その理由のひとつは、将来が不安な事業を継ぐよりも、子供には大企業で働くか、何か資格を取って安定した生活をして欲しいと願う親(経営者)が多いからです。
子供が自分の事業を引き継いでくれればもちろん嬉しい。しかし苦労することがわかっている事業を本当に承継させて良いかどうかには躊躇します。
私はさまざまな小規模事業者や中小企業の経営者とお話をする機会がありますが、子供に事業を引き継ぎたいと心から思っている経営者は、基本的に事業が上手く行っています。
その反対に、どんなに歴史がある企業でも、市場が先細りで引き継いだ人が苦労することが目に見えている事業を、子供にどうしても継いで欲しいと思う親はあまりいません。
業績以外の問題も
二つめの理由は従業員です。経営者が高齢化している中小企業では、事業所で働く従業員の高齢化も顕著です。特に製造業では、従業員の平均年齢が70歳という職場も珍しくありません。古い体質の中小企業や町工場には、なかなか若手の人材が定着してくれません。
さらに個人事業者や小規模事業者には、芸術家や士業のように、スキルや資格が必要で簡単に承継できない事業も数多くあります。
このような背景を考えれば、中小企業数対策として小規模事業者数の減少を防ぐために税金を投入することは、あまり効果的とは思えません。
それよりも、従業員を数多く抱え、事業が承継されなければ影響が大きい地方の中規模企業への支援や、廃業せずにM&AやMBOによって新陳代謝を促進する道を選んだ中小企業への税制優遇や補助金の交付等の支援を行うべきです。
ひと口に「中小企業」といっても色々です。小規模から中規模まで、全ての企業の延命を図るのではなく、規模や産業を区別し、優先順位と強弱をつけた支援が必要です。( なぜ中小企業の数は減るのか② へ)
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後半では、小規模M&Aのビジネスモデルに基づいた事業計画の作り方とその根拠を説明しています。ビジネスモデルの作り方や事業計画の策定マニュアルとしても参考になるはずです。
[1]従業員20人以下(商業(卸売業・小売業)・サービス業は5人以下)の事業者等
[2]「小規模企業者」以外の「中小企業者」
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